12.付き合おうか

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そこにいたのは――やっぱり後藤! 「よっ、久しぶり」 オジサンが声を掛けたけど、後藤は微かに頭下げただけで泳ぎ始めてしまった。 「な、喋んないだろ?」 私も黙ってたけど、目が合ったのに無視ってどういうこと? 私何かしたかな。日菜ちゃんウチに連れて来てこっそり姿見せようとしてたのバレてた? しばし呆然と後藤の泳ぎを見学。 ホントだ、速いし綺麗なフォーム。 話しかけるタイミングを探りながら隣のレーンで泳ぎ始めたけど、後藤は全然休む気ないみたい。いつの間にかオジサン達も退散してしまったし、私の体力も限界になったので諦めてプールを出た。 会えたら偶然のふりして笑顔で話しかけるつもりだったのに、すっかり予定が狂ってしまったし、これ以上ここにいても意味ないだろう。 むしろ嫌われるかも。避けてるのに探し出されたら迷惑だよね。 後藤が私に親切なのは父に世話になったから娘に恩を返してるだけで、女としてはギリ抱ける程度なんだろうな。 後藤に泳ぎ始めた理由を聞かれたら、最近太ってきたからダイエットだよと答えるつもりだったけど、何か美味しい物で自分を慰めようと駅ビルをじっくり見て回って、日菜ちゃんが美味しかったと教えてくれたケーキやタイムセールで半額になったお弁当を買って電車に乗り込んだ。 あーあ、何やってるんだろ、私。 夏目涼に好きとか言われて勘違いしてたのかな。 日菜ちゃんに落とせなかった後藤を落とそうなんて、身の程知らずよね。 あーあって、また溜息をついたら、横にいた男性が囁いた。 「彼氏と上手く行ってないのか?」 え?
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