76人が本棚に入れています
本棚に追加
プロポーズだとしたら確認するのは野暮だし、そうじゃなかったら恥ずかしいし、結局それ以上は聞けず落ち着かないまま食事を終えた。
そして食後のコーヒーが運ばれてくると、後藤が店員さんを呼び止めた。
「すみません、シェフに挨拶をしたいのですが」
「はい、少々お待ち下さい」
えっ、後藤ってそういうことする人!?
イメージないわって思っていたら、店の奥から素敵なオジサマが現れた。
ゆっくり席にやって来ると、彼はまず私に声を掛けた。
「いらっしゃいませ。お食事は口に合いましたか?」
「は、はい。とても美味しかったです」
本当は緊張していて味はよくわからなかったけど、全部残さず食べたし、笑顔でそう答えた。シェフは静かに頷くと、今度は後藤に話しかけた。
「仁、よく来てくれたね。彼女が例の――」
「いえ、彼女とはもう別れました。こちらは一条波美さん。再婚を考えている女性です」
驚きすぎて固まった私に構わず、2人は話を続けた。
「一条さんって……」
「ええ、隣の一条さんのお嬢さんです」
「それは……お父様には昔大変お世話になりました」
まだ言葉が出なくて頭を下げるのが精一杯。
「仁、今日は泊まって行けるのか?」
「はい。部屋、空いてますか?」
シェフは内線で確認して部屋を用意してくれた。
「ランチタイムの後に話そう。部屋で待っていてくれ」
「わかりました」
一礼してシェフが去ると、後藤はすぐに立ち上がった。
私は何が起こっているのかよくわからないまま、後藤についてレストランを出た。
最初のコメントを投稿しよう!