14.先に出て待ってる

4/20
前へ
/293ページ
次へ
プロポーズだとしたら確認するのは野暮だし、そうじゃなかったら恥ずかしいし、結局それ以上は聞けず落ち着かないまま食事を終えた。 そして食後のコーヒーが運ばれてくると、後藤が店員さんを呼び止めた。 「すみません、シェフに挨拶をしたいのですが」 「はい、少々お待ち下さい」 えっ、後藤ってそういうことする人!? イメージないわって思っていたら、店の奥から素敵なオジサマが現れた。 ゆっくり席にやって来ると、彼はまず私に声を掛けた。 「いらっしゃいませ。お食事は口に合いましたか?」 「は、はい。とても美味しかったです」 本当は緊張していて味はよくわからなかったけど、全部残さず食べたし、笑顔でそう答えた。シェフは静かに頷くと、今度は後藤に話しかけた。 「仁、よく来てくれたね。彼女が例の――」 「いえ、彼女とはもう別れました。こちらは一条波美さん。再婚を考えている女性です」 驚きすぎて固まった私に構わず、2人は話を続けた。 「一条さんって……」 「ええ、隣の一条さんのお嬢さんです」 「それは……お父様には昔大変お世話になりました」 まだ言葉が出なくて頭を下げるのが精一杯。 「仁、今日は泊まって行けるのか?」 「はい。部屋、空いてますか?」 シェフは内線で確認して部屋を用意してくれた。 「ランチタイムの後に話そう。部屋で待っていてくれ」 「わかりました」 一礼してシェフが去ると、後藤はすぐに立ち上がった。 私は何が起こっているのかよくわからないまま、後藤についてレストランを出た。
/293ページ

最初のコメントを投稿しよう!

76人が本棚に入れています
本棚に追加