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「さっきの方って、後藤くんの親戚?」
「うん、親戚っていうか、父親だ」
お父様――!?
「そ、そうだったんだ、敬語で話してたから……」
「ああ……父と話す時はなんとなく敬語混じりになる。さっきは人目もあったし」
へ、へえ……まあ、そういう家もあるよね。
「それであの――」
「話は部屋でしよう」
チェックインして案内された部屋に入って一息つくと、後藤はようやく説明してくれた。
「驚かせてごめん。父にも今日来ることは話してなかったんだ。その方が自然に会えると思って」
まあ事前に言われても狼狽えるだけで何も準備出来なかったに違いないけど、お父さんも知らされてなかったのに、あんなに冷静だったのか。
「一条が家族になりたいって言ってくれたのは嬉しかったよ。だけどまだ返事は出来ない。現実を見てもう一度よく考えて欲しい。だからここに連れて来た」
「現実って……病気のお母さんのこと?」
「ああ。俺も会うのは5年ぶりだ」
このペンションはお父さんの叔父、つまり後藤の大叔父夫婦が経営していて、ご両親は彼等に誘われてここに移住したのだという。
「大叔父には子供がいないから、跡を継いで欲しいってね」
お父さんは最初断ったけれど、ここなら仕事の合間に妻の様子を見に行けるし、何かあれば自分達も助けることが出来ると説得されたらしい。
「そうだったのね。私てっきり……」
「俺に気を遣って出て行ったと思っていた? それもあると思うよ」
そうか、5年前なら後藤が最後の彼女と別れた直後かも。
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