14.先に出て待ってる

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振り向くと、謎の後藤さんが立っていた。 やっぱりお母さんだったの? やっと息子に気付いたの? そう思ったけれど、彼女の視線の先にいたのは猫だった。 「え、あの――」 「行こう」 後藤が私の手を引いた。 黙ったまま部屋に向かうと、レストランの方からお父さんもやって来た。 「会って来たのか?」 「はい。俺は今、猫らしいね」 「ああ……中で話そう」 どういうこと……? 大袈裟に騒いだら失礼なので、黙って話を聞いた。 人は自分の感覚器官で捉えた情報を自分の脳で処理する形、つまり自分というフィルターを通してしか外界を認知出来ないので、厳密に言えば世界は人それぞれ違って認識されているものだけれど、後藤のお母さんは病気のせいでそれが他の人達とは大きくズレてしまっているのだと説明された。 「仁と離れて暮らすことは説明したし理解したように見えたけれど、忘れてしまったみたいで……仁を探していた時に流れて来た歌を聴いて閃いたそうだ。仁は猫になったんだって。それで保護施設に探しに行って連れて来た」 「ご、ごめんなさい、お話がよく――」 思わず話を遮ってしまったら、後藤が言った。 「わからなくていいんだよ。母にとってはそうなんだって受け止めてくれれば」 「……後藤くんはそれでいいの?」 「仕方ないんだよ。母にはそうとしか思えないんだから。それを否定しても混乱させてしまうだけだ」 後藤は冷静に全て受け止めているようだった。 もうそんなことには慣れている、彼はずっとそういう世界で生きてきたのだと、私は理解した。
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