14.先に出て待ってる

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「でもあの猫が来てから随分落ち着いているんだ。陶芸もセラピーになるし、ここの生活は母さんに合っているみたいだよ」 「そうですか。俺の代わりに猫の仁くんが親孝行してくれているんだね」 「ああ。だから仁は何も気にしなくていい。俺達はここの人達と生きて行く。ただし……」 お父さんの視線が私に向けられた。 「逆に親らしいこともあまりしてあげられない。結婚式に出席したり、そちらのご家族とのお付き合いは難しい。それでも構わないなら、仁をよろしくお願いします」 「いえ、こちらこそよろしくお願いします」 頭を下げられたので慌てて私も頭を下げて、顔を上げた時にはお父さんはもう後藤の方を見ていた。 「じゃあ俺は仕事に戻る。何かあったら叔父さんか叔母さんに伝えてくれ」 「はい、忙しい所ありがとうございました」 敬語で挨拶した後藤の腕に軽く触れながら私に向かって頭を下げると、お父さんは行ってしまった。 え……5年振りに会ったのよね……? なんかもっとこう……ないの? あ、私がいたからかな。 「ごめんね後藤くん、私がいたからあんまり話せなかったんじゃ……」 「いや。十分だよ」 そう……なの? 「一条のご両親とは全然違うだろ。あれが俺の両親だよ。俺と結婚したら、一条の義理の両親になる。別々に生きていこうと言ってくれてるけれど、彼等に何かあったら俺は放っておけないと思う」 「それは当然でしょ」 「大叔父達もいつまで元気でいられるかわからないし、会社を辞めてこのペンションを手伝うことになるかもしれない」 「そうだね」
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