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母は後藤のお母さんの病状についてお父さんから説明を受けた上で、後藤のお母さんに会って手びねり体験をしたらしい。
「この謎の器、ウチの母が作ったのね」
その体験の間に、母は後藤のお母さんに以前隣に住んでいた一条だと自己紹介したようだ。後藤のお母さんは、母の顔は思い出せなかったけれど、隣の家に一人娘がいる家族が住んでいたことは覚えていて、その娘が結婚すると聞くと、お祝いにティーカップを作ってくれたそうだ。
「お嬢さんは確か青い小さな花が好きだったと、この花を描きました。赤い花は強すぎて苦手な私に、息子の仁がプレゼントしてくれた花だと……」
言葉に詰まった後藤の手から手紙を受け取って、続きは私が読み上げた。
母は後藤家の事情を承知の上で私達の結婚を祝福したいと伝え、なんとか内輪だけでも式を挙げられないかと大叔父さん夫婦にも相談した。すると大叔母さんが、ペンションを貸し切ったらいいと提案してくれたそうだ。
「ただし土日となると半年以上先になります。その前に入籍するのであれば、同封の用紙を使って下さい……ですって。入ってる?」
後藤は封筒の中からその用紙を取り出した。
婚姻届! 実物初めて見た。
「あー、証人って言ってたの、こういうことなのね。2人必要なんだ」
「うん。日菜の時には大叔父さんのサインも入ってたけど、今回は父だけだな」
「そっか。普通は両家から1人ずつってこと?」
「まあ、それぞれの親ってのが一般的だろうね」
なるほど。
「書く?」
いきなり聞かれて戸惑っていたら、既に届けを出したことがある後藤はスラスラと記入し始めたが、途中で止まって私と目を合わせた。
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