3.タイプです

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「私、おひさまの『日』に菜の花の『菜』と書いて日菜(ひな)です」 「あ、どうも一条です」 「下のお名前は?」 「波美です」 「漢字は?」 「ウェーブの『波』に美術の『美』です」 「一条波美(いちじょう なみ)さん……綺麗なお名前、女優さんみたい」 たまに言われる。いつものように名前負けしてるでしょって顔で苦笑いしたら、キラキラした目で彼女は続けた。 「ていうか、モデルさんみたいですね」 背高いから、これもたまに言われる。でもスカウトとかされたことないしお世辞よね。お世辞にはお世辞を返すことにしてるので、私は彼女が喜びそうなお世辞を言ってみた。 「そういうあなたはアイドルみたいに可愛らしいね」 どう見ても年下だったからタメ口にしてみた。色白の丸顔にパッチリ目、ピンク色の艶やかな唇。お世辞じゃなくて本当に芸能人でもおかしくないレベルの可愛さかも。後藤、こんな可愛い子落としたのかって感心してたら、彼女はびっくりしたって顔して答えた。 「わかります? 私……3年前までアイドルだったんです」 本物の元アイドル!? え、本当に? それとも冗談? なんて答えたらいいのかわからなくて黙っていると、フフっと笑って彼女は言った。 「波美さん、すっごい私のタイプです。仲良くして下さいね」 よくわかんないって顔してる間に彼女はまたタタターっと駆け足で隣の家に戻り、玄関の扉を開けて中に入ろうとしてまだ私が立っていることに気付くとにっこり笑って小さく手を振った。手を振り返しながら、つい呟いてしまった。 「可愛い……」
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