4.手を繋いでもいいですか

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「今思えば私どうかしてて……生きてても皆に迷惑かけるだけかなって考えながら歩いててクラクション鳴らされた時、思っちゃったんですよね。あ、このまま轢かれればいいんだって」 驚いて何も言えずにいると、彼女は続けた。 「そしたら急ブレーキで車止まっちゃって、中から運転手さん出てきて、あー怒られるなって思ったら、どうしたって優しく声を掛けられたんです。それで……泣き出した私を車に乗せてくれて、怪我はないか、何処に送ればいいって聞かれたから答えたんです。知らない場所なら何処でもいい、あなたの家でもいいって。彼は最初戸惑って警察に連れて行かれそうになったりしたんですけど、結局自宅に連れて行ってくれました。それがここです」 本当に運命的な出会いしてた! てか何それ、やってることまるでイケメンじゃん。後藤のくせに。 「レイプされても殺されてもいいやって思ってたんですけど、腹へってないかってご飯作ってくれて、それが凄く美味しくてまた泣いちゃったら、食ったら寝ろよって布団敷いてくれて、あーやっぱり襲われちゃうのかなってちょっとワクワクしたんですけど――」 わ、ワクワク? 「いつの間にか眠って朝になって、帰りたかったら鍵とか気にしないで帰っていいって書き置き残して彼は出勤してました。でも帰る場所なんてなかったからここで彼を待ってました。帰って来ると彼はまたご飯を作ってくれて、何があったんだって聞いてくれたんです。だから私全部話して、彼私のこと知らなかったから動画も見せて説明して、お世話になりましたって出て行こうとしたら、もう遅いし泊まれって言われました。その翌朝は彼が出掛ける前にちゃんと起きたから今度こそ出て行かなきゃって挨拶しようとしたら彼に提案されたんです。入籍しないかって」 「え、いきなり!?」 「はい。急ブレーキかけた時に彼の方が頭ぶつけておかしくなっちゃったのかなって思いましたけど、彼、冷静でした。だって森山ひなでいるのが辛いんだろ、だったら後藤日菜になれよって」 アイドルを引退した彼女は、事務所の寮を出てネットカフェを転々としていたらしい。高校中退の元アイドルを雇ってくれそうな会社を探しても見当たらず、ネットで調べていると自分への誹謗中傷を目にしてしまうこともあって辛かったようだ。その上彼女が森山ひなだと気付いた人にAVデビューさせられそうになったりもしたので、名前を平仮名に変えただけの芸名をつけたことを後悔していたという。
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