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まあ、死ななかったけど。
グッスリ眠って目が覚めた。朝ではなくて真夜中みたい。薄暗い部屋の中で小さな四角い光を手にした天使……いや、悪魔なアイドル冬真くん。
ああ、私の携帯チェックしろってのが命令だったのか。ソファから体を起こしたら、冬真くんは不満そうな顔で振り向いた。
「連絡先交換してないんだね。大した知り合いじゃないの?」
「そうよ。ねえ、会ってみないとわからないって言ってたけど、あなたはどう思う? 桜川さんは彼女に会ってどうしたいのかな」
冬真くんは、益々不満そうな顔を近づけて答えた。
「本人がわかんないって言ってるのに、僕にわかるわけないじゃん」
「そうだけど……彼は熱愛否定して芸能活動続けてるわけじゃない? でも本当は今でも本気で彼女のことを――」
「本気って何? 僕は他人を本気で好きになった経験なんてないからわからない。自分で考えて」
そう言われたから考えてみた。
そして思った。まだ本気で好きなら安全ってわけでもないなって。
だって日菜ちゃんはもう人妻だ。それを知ったら、彼がどうするかは……やっぱり考えてもわからなかった。
私は、桜川陽のことをほとんど知らない。
日菜ちゃんのことだって、よく知らない。
人を好きになるってどういうことかも、あんまりよくわかってない。
もう、31歳なのに。
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