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「それで今度はいきなり追い出す気?」
「いきなりじゃない。3年前に決めたことだ。離婚後も収入が安定するまで経済的な支援は続けるよ」
「離婚した妻に? 変でしょそれ」
「慰謝料って考えれば変じゃないだろ」
いやいやいや、何を慰謝するのよ。
後藤、あんた変だよ。
「でも3年間大事に守ってきたんでしょ? 心配じゃないの? ねえ、あなた本当に日菜ちゃんのこと――」
「一条、誰かを殺しそうになったことあるか?」
関係ない質問に思えて眉を顰めたら、後藤は言った。
「あの時……日菜に初めて会った時、もう少しスピードが出ていたら、俺は彼女をひき殺していた。彼女に非があったとしても、そうなっていたらもう車を運転することは出来なくなったと思うし、職も失っていたかもしれない」
後藤は話しながら滑らかに運転を続け、静かに減速して信号で止まった。
「彼女にぶつかる前に車が停まって本当にホッとした。でも彼女は全然無事じゃなかった。自殺に追い込まれた人間の顔、見たことあるか?」
ない。後部座席に座っていた私が絶句してミラー越しに目を合わせて首を振ると、後藤は答えた。
「俺の手には負えないと思った。でも見捨てることも出来なかった。だから連れて帰って、勝手に出て行ってくれることを内心祈ったよ。死ぬなら俺の知らない所で死んでくれって」
えっ酷!
「でも帰ったらまだ家にいた。だから覚悟を決めて事情を聞いた後、彼女についてネットで調べてみたら、聞いた以上に酷かった。なんでこんなこと言えるんだって呆れて腹が立って……彼女が生きる気力を奪われたことに納得した」
「だから結婚して彼女を守ることにしたのね……」
「いや、結婚したつもりはない。便宜上入籍しただけだ。だって彼女には好きな男がいるからね」
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