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桜川陽か。
「知らない人が勝手なこと言うのはまだいいけど、昨日まで応援してくれていた人に責められるのは本当に辛いんだって。先に裏切って傷つけたのは私の方だから仕方ないけれど、とても悲しいし弱みもわかってる人達だから凄く怖いって。彼には私より多くのファンがいて、その人達が全部敵になったら恐ろしいから、私が罪を引き受けて消えることにしたって。日菜は、好きな男を守る為に引退したんだよ」
そうだったのか。日菜ちゃん、桜川陽の為に自分が悪者になったんだ。なんて健気な……
「それって彼は知ってるの? 日菜ちゃんが思い詰めて勝手にやったこと? まさか頼まれて犠牲になったってことは……」
「さあ、どうなんだろうな。とにかく日菜は、彼が好きなんだよ」
――後藤はそれでいいの?
「でもそれ3年前でしょ? 最初はただの契約でも日菜ちゃん、もう彼よりあなたのこと――」
「それはダメだ。このままでいいなんて諦めたら、日菜を叩いてた奴等の思う壺じゃないか。この先ずっと8つも年上のただの会社員の妻だなんて、ないだろ。あっちゃいけない」
うおおー、今の交差点通過、ちょっと強引だったよ!?
「じゃあ……日菜ちゃんを彼の元に帰らせるつもり?」
「いや、あいつの所にはもう戻れないし戻ってもまた傷つくだけだろう。そうじゃなくて、あいつを越える男と出会って幸せになるべきだってことだ。俺なんかで妥協しないで」
確かに後藤が桜川陽と並んだら明かに見劣りするだろうけど、そこまで卑屈にならなくても……
「日菜、わざと単位取るの遅らせてるみたいなんだ。一条から言ってやってくれないか? 惰性でこのまま専業主婦なんてダメだ。ちゃんと仕切り直して生きろって」
そんなこと言われても……私、ただのお隣さんだよ?
「うんまあ……社会復帰はするべきだと思うし、就職はした方がいいと思うけど……あなたの妻は続けてもいいんじゃないの? 8つ年上のただの会社員だっていいじゃない。あなた結構いい夫よ。もっと自信持っていいと思う。どうしてそんな――」
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