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斉藤に連れて来られたのは手芸部の部室だった。  「ええと、多分ここなら…… あった!」 「何が?」 「ボタン縫おう? 時間的に全部は無理だけどひとつくらいなら付けれるから」 「いや俺そういうのはあんまり得意じゃなくて」 「私がやるから。 新庄君はそこに座っててくれる?」 別にいいのにと思いながらも俺は椅子に座った、そして辺りを見回す。 「あーやっぱいいよ、脱げるとこないし」 「あ! き、着たままでも出来ると思うから多分……」 多分って…… そして俺の真正面に斉藤は座りボタン側を摘んだ。 心なしか…… いや、明らかに斉藤の手が震えていた。 針を刺されるんじゃないかって心配になってきた。 「斉藤、大丈夫? 時間ないし」 「うわッ! そうだった、落ち着け私……」 いやいや、落ち着いてないならやめて欲しいんだけど。 斉藤が前屈みになって俺のボタンを縫っていて頭が目の前にあるのだが女の子特有のなんだろう、ジャンプー? と思う匂いがフワッと香る。 良い匂いだなって思った、けどそんなこと思ってるなんてわかったら気持ち悪いよな? 斉藤は俺がそんなことを思ってるなんて知らずにプルプルと震えながらもなんとかボタンは付いたようだ。 「はい、これで良し! …… だよね?」 うん、とりあえずこれでボタン3つもあけてる勘違いセクシー野郎気取りは若干和らいだと思うけど。 「なんて言うか…… ありがとな」 「へ? う、ううん! こちらこそお粗末様でした」 「…… ああ」 「………… あはッ」 少しシーンとなったが斉藤がそれに耐えられなかったのかニコッと笑った。 「そうだ! 教室戻ろう、もう時間だし!」 「そうだな」 「あ、その前に新庄君、今日放課後空いてるかな?」 「なんで?」 「…… ええとね、この際だからボタン全部直しちゃおう? 新庄君が放課後空いてればなんだけど」 「ありがたいけどそんなことしてくれなくてもいいよ、それに替えがもう1着家にあるし」 「あぅ…… でもでも! ちゃんと直した方がいいと思う! ボタンも拾ってきたんだし上手にやるから」 「?? まぁそこまで言うなら」 「うん!」 律儀な奴だなぁと思い部室の扉に手を掛けた時違和感を感じたがそのまま開けると宗方が立っていた。 なんでこいつがここに? 「お前かよ」 「え? 宗方さん??」 「何よ、いきなり開いたからビックリするじゃない。 何してたの? …… てか何それ?」 宗方が俺のボタンを見てそう言ったんだと思う、目敏いな…… 「こ、これはね、さっき変な先輩が新庄君に絡んできて」 「私はあんたに聞いてるわけじゃないけど?」 「うッ……」 「でももう事情はわかったろ? そういうことだ、てかお前何しにここに来たの?」 「言う必要ある?」 ギラッとした目で俺を睨んで言った。 そういうのやめろよ…… と俺が言ってもだけどな。 けど宗方は溜め息を吐いて口を開いた。 「2時限にここで授業したでしょ? その時忘れ物したから急いで取りに来ただけよ」 「ああ、そう」 「邪魔よ」 「ご、ごめんッ」 俺の横に居た斉藤の肩に手を当て俺と斉藤の間を割って入るように通った。 「…………」 「私のこと見てないでさっさと行けば? 授業始まるわよ?」 「せっかくだから宗方さんも一緒にって……」 「余計なお世話」 「じゃあ行くからよ」 宗方にプリントのことを注意していたくせにこいつもこいつで忘れ物してて人のこと言えねぇんじゃね? と思うんだけど宗方だしな。 「私ちょっと…… ううん、凄く嫌われてるのかな?」 「ん?」 「宗方さんに」 いや、そんなことはない。 宗方は全員嫌いなんだ、そう言おうと思ったけど何故俺がそんなことわかるんだと思われそうだったので言うのをやめた。 「機嫌悪いだけだろ? 知らないけど」 「そうかな? …… でも宗方さんが新庄君に話し掛けるのと私に話し掛けるのってなんか微妙に違う気がする」 「ふーん、そんなんわかんねぇわ俺」 「…… あ! それより今日の放課後いいんだよね!?」 「ああ」 斉藤は朗らかに笑って「任せて!」と力強く言った。
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