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話は前に少し遡り俺は高校生になっていた。 両親はおらず天涯孤独の身、中学までは施設に居たが俺みたいなのを支援してくれる団体が居て俺はそこの人達に支えられてアパートを借りさせてもらい更に高校入学を果たしていた。
両親が居ないからって俺はグレちゃいない、小中で親が居ないことを揶揄われることもあったがだからなんだという感じで飄々と過ごしていた。 友達は…… そう呼べる奴が居たのか定かじゃないがそこまで欲しいとは思わない。
だがそんな地元を離れて俺は遠くの高校に進学した、それは支援してくれる団体がその高校の近くにあったからだ。
それでも高校からは少し距離があるのでバイクの免許まで取得させてもらいお世話になっていた施設からほとんど使ってなかったからとバイクまで借りさせてもらい至れり尽くせりだった。
高校生活は俺にとってはまた最初からやり直すだけで別にそれが寂しいとは思わないし入学式を済ませ当然周りは知らない連中ばかり、けどそんなもんいいさ。 俺はここで何不自由なくやっていけてる、恵まれている方だ。
周りは近しい中学からの同級生や、上手く馴染んでいる奴らやコミュ力の高い奴など居る中俺は入学して2ヶ月、まだ馴染めないでいる授業中……
「新庄…… 新庄! 新庄 世那(しんじょう せな)!!」
「え? はい」
「はいじゃないぞ? 間の抜けた返事をして。 授業聞いてたか?」
「…… なんでしたっけ?」
「聞いてないじゃないか、43ページ3行目」
ああ、俺の番になっていたか。 俺は教科書を開いて朗読した、窓際をボンヤリと見ていたせいで授業が頭に入ってこなかった。
それは1人の少女を見ていたからだ。 宗方 青葉(むなかた あおは)、彼女はなんだか少し俺に似ているような気がしたから。
肩までくらいの黒髪に透き通るような白い肌に均等の採れた顔立ちで綺麗なんだけどどこか幸薄そうな。
それのせいかなんなのかはわからないが彼女の周りには友達らしい友達などおらず彼女もまた適当にというか当たり障りなく人と接して深入りせずという感じ。 あ、どっちかといえば後者のせいか。
高校の部活は美術部を選んだ。 誰かと一緒に何かをやる部活より個人で取り組む系の方が俺には向いている気がするから。
何より基本やってもやらなくてもみたいな雰囲気だから融通が効く、俺は特に用事とかはないんだけどな。
そんなある日の帰り道、バイクを引っ張って駐輪場から出た時足元にハンカチが落ちていて少し前方には女子生徒が歩いている。
あの子が落としたのかな? そう思ってハンカチを手に取りバイクを引っ張りながら近付いていくとその女子生徒の反対方向から小学生の男の子が歩いてきてちょうどすれ違うところで転んでしまった。
その女子生徒はその男の子を無視してそのまま歩いていく。 大丈夫? くらい言ってやれよ、目の前でコケたんだから。 その女子生徒が行った後、転んだ男の子はその女子生徒を見て起き上がり走って行った。
まぁ俺がそんなことを思ってはいても俺もそんな行動を起こさないかもしれない。 心のどこかでは俺もその場になったら無視して行くような奴だから。
「あ…… そういやこのハンカチの持ち主はと」
当然ながらもう姿は見えないがなんとなくそこら辺をしばらく歩いていると人気がない川の方へ出た。
へぇ、前に暮らしてたとこより結構田舎っぽいところだなぁと思ってたけどやっぱり田舎だなぁと。
こんなとこに流石に居ないと思い少し先の方を見てバイクに跨り帰ろうと思うとこちらに背を向けてしゃがんでいる子が見えた。
まさかさっきの女子生徒? バイクから降りて近づいて行き砂利の音でその子は気付いてこちらを向くとその子の横からぴょいっと猫が猛ダッシュで駆けていった。
「あッ」
「??」
振り向いたところでその子は宗方青葉だということに気付いた。
「誰…… 君?」
「いや知らないのかよ? 同じクラスの新庄世那だよ」
「あ、そうなの。 ごめんね」
覚えてすらいないとはな、まぁ宗方は他人に興味なさそうだしそうなのかもしれない。
「そんな同じクラスの新庄君が私なんかに何か用?」
「用ってほどの用じゃないけどこのハンカチ落ちてて前に居たからお前のかなって」
「…………」
「違った?」
「ううん、私の。 ありがとう」
「そっか、なら良かった、てかこんなとこで一体何をしてたんだ?」
「猫と遊んでただけだよ、それに私の家こっちの方だから」
「そうなんだ」
こいつの家はここら辺なのか、辺りには家などなく寂しいとこに住んでるんだなと思うと彼女は俺を一瞥して帰って行った。
わかってるけど愛想のない奴だな、もっとニコニコしてれば周りと上手くやれば結構モテると思うのだがって俺に言われたくないか。
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