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「はあ〜、世那君暑いからジュース買って」 「自分で買え」 「え〜、友達なら買ってくれんじゃないの?」 「お前の友達感ってなんだ? 人をパシリにすることなのか?」 「それプラスでアッシー君も追加ね! なんてね、でも流石に暑いから買ってよー? ねえねえ」 なんて図々しい奴なんだ、けど確かに俺も暑いので自販機がある場所まで移動した。 「ほらよ」 「わぁ、優しいね! 友達になったからかな? ありがと〜」 「何が友達だよ、散々友達なんてってバカにしてた挙句なった途端乱用しやがって」 「うへへぇ、こりゃ手厳しいお言葉で。 あ、友達だからって学校では態度変わらないからね」 そりゃまぁいきなり変わったら周りもビックリだし面倒そうだもんな。 「はいはい、つうかここって俺が前住んでいたとこよりも暑いよな、北上してきたのに」 「そう? まぁ外は暑いけどエアコン付けてれば涼しいっしょ」 「お前の家エアコンあるのか、そこは羨ましいな」 「ええ!? まさか世那君の住んでるとこエアコンないの?」 「ないよ、扇風機すらないし」 「よく死ななかったね」 「うるせぇ」 エアコンは無理でも扇風機くらいは買った方がいいかなと思ってた。 それくらい買うくらいは仕方ないよな? 切り詰めた生活してた分。 「どっか涼める場所…… 図書館とかあればそこで時間潰せるんだけどなぁ」 「ん〜、そんなとこすらないのよここは。 あ、それなら私の家に来ない?」 「宗方の家?」 「そう!」 満面の笑みでこいつはそう提案したが…… 「お前さ、いくら田舎だからって易々と男を家に連れてくのはどうかと思うぞ」 「世那君まさか私のことを襲うつもり?」 「アホか、なんで俺がお前を襲わなきゃいけないんだよ?」 「そりゃあ私が美人だから」 見て! と言わんばかりに風景を見ていた俺の正面に立ち少し屈んで胸元を強調するポーズをとってきやがった。 「バカじゃないのか」 「世那君もしかして女の子に興味なくてまさか……」 「んなわけあるか! お前の言うこと聞いてると痛い目見そうだから警戒してるだけだっつの! 大体なんでそんなに挑発してくるんだよ? お前を襲ったら友達として成立しなくなるだろ?」 「あ、そっかぁ。 それもそうだねぇ……」 「少し考えればわかるだろそんなこと。 まったく」 「でもまぁ純粋に世那君が干からびないか心配してあげての提案だから。 私ってどこぞのバカ友と違って友達思いじゃない?」 どこぞのバカ友って誰のことだよ?  「ね? とって食うわけじゃないから私の家に行こっか」 「女が言うセリフじゃないぞそれ。 てか……」 「ん?」 「俺同級生の家なんて行ったことない」 「うわわッ! いいじゃん、私が初めての相手。 私も同級生招待するなんて初めてだから一緒だね」 「語弊がある言い方すんなよ!」 そんなわけで半ば強引に宗方の家に行くことになった。  宗方の案内で川辺を少し走らせたところの寂しい場所ポツンと一軒建っている家が見えたところで宗方がバイクを止めてと言った。 「あれだよ!」 「一戸建てかよ」 「なかなか立派でしょ? まぁ借家なんだけどさ」 「お前ってもともとはここの住人じゃないのか?」 「そうだよ、言ってなかったっけ?」 言ってないし聞いてもなかったな、そうだったのか。 「…… お前ここで一人暮らししてんの?」 「そだよ、凄いでしょ?」 「凄いっていうか両親居ない割には恵まれた生活だな」 「お爺ちゃんお婆ちゃんのお陰かな!」 「普通そんなにしてもらったらそっちの家に住んだ方が良くないか?」 「冗談言わないでよ」 少しキツめな口調でそう言われた。 バイクを家の敷地に停めて宗方の家に入った。 「ちゃんと掃除とかしてるから綺麗だよ。 って玄関の前にボーッと突っ立ってないで上がりなよ?」 「あ、ああ……」 だから初めてで少し戸惑ってるんだっつの。 しかも女の家だろ…… そしてリビングに連れて行かれ今はソファに座っている。 俺のボロアパートと大違いだ、エアコンも入っていて凄く心地いい。 「なんか飲む?」 「なんかあるなら」 「オレンジジュースでもいい?」 「うん」 「キョロキョロして何か粗探し?」 「いやただ単に……」 「今度世那君の家にも連れてってよ」 「俺の?」 こいつに家バレしてしまうのか…… 断ってもこっちは教えたのに不公平とか言われそうだ。  「…… そのうちな。 夏はめちゃくちゃ暑いし冬も寒いだろうけどお前大丈夫なの?」 「うげ…… なんか凄そう。 ああ、そういえば扇風機くらいあるけど欲しい?」 「え?」 「欲しい?」 マジか…… 買うよりは貰った方が全然いい。 でもこいつこれをダシに何かしてくるんじゃないだろうな? 「確か物置にあったはず…… 汗かくの嫌だから世那君も一緒に来て」 「わかった、けどそれくれたからって恩着せがましくするなよ?」 「貰う側のセリフとはとても思えませんなぁー。 いいよ別に、物置の邪魔になって捨てるよりはあげた方が楽でいいもん」 「まぁそれなら……」 物置に行きゴソゴソと漁っていると…… 「あった、ちょっと埃っぽいような気もするけど気にしないよね?」 「動けば十分だしな」 「ストーブも余ってるけど持ってく? 灯油は流石に自分で買ってね」 「マジか、それは助かる」 「…… なんか私に向けられた初めての笑顔なんだけど物でつられてない?」 少しムッとした宗方は乱暴にストーブを俺の方に置いた。 おいおい、壊れたらどうすんだよ?  「あー重い。 世那君それ玄関まで運んでね」 「わかってるよ」 扇風機をまず玄関に持って行き次はストーブだ、その間宗方はリビングのソファで寛いでいた。 「ん?」 ストーブが置いてあった場所に何か落ちてた。 さっき宗方が乱暴にストーブを動かした時どっからか落ちたのか? 拾ってみると古そうな写真だった。 3人写ってる、これは宗方なんだよな? 幼稚園行ったか行ってないかわからないけどとにかく小さい時の宗方? てことは他の2人は両親か? 「何してんの?」 「うわッ!」 不意に後ろから話し掛けられ振り向く瞬間咄嗟に写真をズボンのポケットに入れた。 「いきなり後ろから話し掛けるなよ、ビックリするだろ」 「遅いなぁと思って」 「このストーブ上に埃たまってたから払ってたんだよ」 「もぉー、そこで埃払わないでよぉ。 やるなら外でやって。 あと流石に物置に私の下着とかないからね、残念!」 「何が残念なんだ」 そのまま戻る機会もなく写真を持って帰ってきてしまった。
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