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勝手に持ち出すことになっちまった宗方の写真。 物置では暗くて見えなかったが裏側には黒木(くろき)青葉3歳と書かれてあった。 黒木青葉…… 今は宗方青葉ってことは宗方は母親側の苗字か? そっちのじいちゃんばあちゃんにお金の世話してもらってるってことはそうだよな。 いやそんなのはどうでもいいか。 てことより宗方の家から扇風機貰ってマジで正解だったな、暑いは暑いけどあるのとないのじゃ大違いだ。  ストーブも貰ったしお金の節約に大いに貢献だ。 まだいらないもんとかあったりしてなんて思うが今度は見返りを求められるかもしれないしな。 貰っておいてなんだが俺の家にもあとで連れてけと言ってたよな…… 辺りを見回してみると暇を潰せそうなものは何もない。 ほんと帰ってきて寝るだけの場所だ、まぁ俺はそれでいいんだけど。  でも宗方の家って結構立派で住み心地良さそうだった、一戸建てを1人で使ってる。俺も泊めてくれたら部屋代も掛からずに…… って何考えてんだ、バカじゃないか。 その後は何事もなく夏休みは過ぎていき特に宗方からの連絡もなかったから当然夏休みの間は家に来るなんてこともなく休みがあけた。  そして二学期が始まる。 休みは暇だったとはいえ過ぎてみるとあっという間だったな。 夏にはっちゃけた奴らも居るようで木戸なんか髪の毛を金髪とピンクにしていた、目立つよなぁ。 「おはよう新庄君」 「ああ、おはよ? …… ??」 なんだ? 挨拶したのに斉藤の奴何俺を見てんだ? すると山梨と藤岡が来た。 「いや気付かないって」 「言った通りっしょ」 「そ、そんなつもりじゃないもんッ!」 はあ? 何を気付けってんだ? 俺が怪訝な顔で斉藤を見ていると山梨が斉藤の前髪をいじり出した。 「なんか沙優奈前髪薄くなったよねぇー、いや長さもほんの少し短くなったってゆーか」 「そこまで言うか、あはははッ」 「あ、いや! べ、別にそこに気付いて欲しいわけじゃッ」 「おっと〜、今度はとぼけ出して」 え? 髪切ったってことに気付いて欲しかったのか? そんなもんわかったからってそうなんだとしか…… 「でもさ、新庄君って割といい声してるよねぇ。 低い声で落ち着くっていうか? 暗いだけで顔もまずまずって感じで」 「ちょッ!? 舞何言ってるの? 新庄君に失礼でしょ!」 「失礼って…… 褒めたんだけど?」 「あ、あれ! ほんとだ…… ってそれよりなんのつもりよぉー!!」 怒った斉藤から逃げるように山梨達は教室から出て行って斉藤もそれを追った。 休み明けそうそううるさい奴らだな。 そして宗方、あいつはあの日家に行ったっきりだったけど特に変わりなしという感じだ、いつもの宗方だ。 学校も終わり帰ろうとしたところ俺はすっかり忘れていた。 「おい」 「あ?」 駐輪場へ行くと末永先輩他2名が集結していた。 そうか、夏休み明けと同時に停学明けもしてたのかこいつら。  「この前は随分お世話になったな」 「覚悟出来てるか?」 「ビビってんのか?」 この前調子悪いと言って逃げて行った先輩も3人揃うと強気だった。 変わり身し過ぎだろ、ウゼェ。 「おんや〜? 今日は大人しいじゃねぇか?」 「そういう先輩こそ今日は調子がよろしいようで」 「てめぇッ!」 「まぁ待て待て、また面倒なことになる前にだな俺に耳寄りな提案がある」 提案? 声を聞くのも耳障りな末永先輩から耳寄りな提案だって? ろくなことじゃなさそうだけど聞くだけ聞くか。 「提案とは?」 「明日ここに宗方連れてきてくれねぇか? 俺らが居ること内緒にしてな」 「え?」 「そうすればお前に今後ちょっかいは出さねぇと約束する」 「それ本当ですか?」 「男に二言はねぇ」 マジか、それだけでいいならなんて耳寄りな提案だ。 「なんていうか…… 宗方一途ですね? そんなにですか?」 「一度狙った獲物を、それもここまでしてくれた奴をそうそう諦めるかよ」 宗方絡みでなくてどこか違ったシチュエーションならカッコよく聞こえなくもないセリフを吐きやがった。 あいつも面倒くさい先輩に絡まれたもんだ。 「おいてめぇ! 返事はどうなんだよ!?」 「話はわかりました、考えときます」 「いいか、明日だぞ?」 「…………」 その要件以外今日のところは俺に何かするつもりはないようであっさり帰してくれた。 ちッ、休み明け早々にこんな厄介事なんて。  アパートに帰り少し考えた。 あーあ、宗方なんて知らんと先輩に渡すか? てかなんで俺にそんなこと言うんだよ、いい迷惑だ。 でも………… 本当の友達なら悩むことなく拒否するんだろうな、俺が自分の保身を考えてこうして悩んでる時点で俺は友達として相応しくないのだろう、あいつにも俺は相応しくないって言ってたからな。 もし逆の立場だったなら宗方はどうしてるだろう? 虚しいな、もしなんてありえないこと考えるより如何に自分が痛い目見ないかだ。
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