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「いてぇ……」
「それくらいで済んで良かったね」
あの後先輩にボコられてて途中から宗方は「それくらいにして!」と言って俺らの中に飛び込んできて誰かの拳が宗方にクリーンヒットして口を切って血を流したところで先輩達は萎えたのかそのまま俺のバイクを持ってどこかへ行ってしまった。
止めるならもっと早くに止めろっつーの。 元を言えばこいつが余計なこと言わなきゃ俺は殴られずに済んだしバイクも無事だったのに。
「お前のせいだろ」
「ウザい先輩達から私を見捨てようとした」
「俺には関係ない」
「じゃあ私にも関係ない」
「あーそうかよ、くそ! バイク持って行かれたじゃねぇかよ」
「大事なバイクだったの?」
「大事も何もあれは借りてるだけだし安いもんでもないだろうが」
「親から借りてるの?」
その言葉に一瞬迷ったけど……
「親は居ない」
「ふぅん」
あっさり「ふぅん」と一蹴された。 まぁ他人事だしそんなもんか。 でもこんな時は嘘でも戸惑ったりすれば?
「じゃあ私と同じだね」
「え? 宗方も?」
「そうだよ、別に私からすれば大した話じゃないから驚かなかっただけ。 気を悪くしたらごめんね」
「気を悪くしたわけじゃないけど道理でなって思っただけだ」
「何が?」
「お前ってなんか影があるっていうかなんていうか」
「胡散臭い?」
「というか基本冷たいよな?」
「それ新庄君が言う? …… まぁ愛情らしい愛情なんて知らないしそれが何? って感じだし周りもバカしか居ないんじゃないかって思うわ」
「そんなこと言っていいのかよ?」
「あ、そうだね。 でも新庄君も友達居なそうだし」
「なかなか言うなお前」
こいつも俺と似たような境遇だったのか。 てか家まで徒歩で帰るのかよ、ボコられて身体中痛い挙句にとほほ……
「それにしてもここの学校の教師マジかよ? 普通にボコられてんのシカトしやがって」
「新庄君もしようとしてたじゃない?」
「…… まぁな」
「バイクで通ってるってことは家まで遠いの?」
「それなりにな」
そう言うと宗方は辺りを見て指差した。
「あそこの自転車で帰れば?」
「人のだろ」
「そこは真面目なんだ」
宗方はクスッと笑った、こいつの笑ったとこ初めて見たわ。
「私、宗方青葉っていうの」
「いや知ってるし」
「自己紹介したっけ?」
「はぁ〜、それすら流して会話してたなお前」
「青葉」
「ん?」
「青葉でいいよ、ええとせ、せ…… ?」
「世那だ」
「そうそう世那君」
俺はこの時こいつはなんだかんだで寂しかったんだと思った。 いくら友達なんて居ても居なくてもなんて思っていても本当のところは寂しいんだと思う、俺だってそうかも。
だからたまたま似たような境遇のこいつにこんなに構っているのかもしれないし他の奴らは適当にあしらっているこいつだってそうなんだろうと思った。 だからこそ本音が出たんだろうと。
「じゃあそこにある自転車は私が借りようかな」
「おい、さっきのことまったく懲りてないよな? もし面倒な奴だったらどうするんだ」
「大丈夫だよ、使ったらそこらに捨てて行けばいいんだし」
「お前最低だな、つうかそんなことしたって俺のバイクが戻ってくるわけでもないし」
「まだ気にしてんの? 諦めなよ、あいつらもどうせ同じことするよ。 どっかに捨てられてるって」
「今更だけど大人しいフリだったんだな、俺だってお前ほどじゃない…… かも」
「?? そんなのどうでもいいよ。 私が何してようがクラスの子達にとってはどうでもいいことだろうし何かあってもきっと気にも留めないよ」
「さっきの先生のスルー振りを見ると説得力があるように聞こえなくもない…… あー、結局殴られ損か。 こんな顔で明日学校行きたくないし治るまでしばらく休むしかねぇじゃねぇかよッ」
「ムスッとしてるだけでなかなか男前な顔が台無しだもんね」
「はあ?」
宗方は鍵が掛かってない自転車に徐ろに手を掛けた。
「ほーら、これ! 自転車も盗って下さいって言ってるよ」
「言ってねぇよ」
その自転車に俺が近付くと宗方はサッと避けた。 なんだ?
「なんだよ?」
「後ろに乗せてくれるんじゃ?」
「はあ? 俺怪我人だしそもそもこの自転車盗むとか……」
言い終わる前に宗方は後ろへ腰掛けた。
「…………」
「行こうよ?」
くそ…… 仕方ない。 俺は前に乗った、多分俺も殴られてムシャクシャしてたんだろうな。
「わッ、はやーい!」
「振り落とされても知らねぇからな」
「辛辣〜ッ」
結局途中まで宗方を乗せて行き、宗方の姿が見えなくなって学校へ戻った。 持ち主は気付いて帰ったかどうかは知らないがまた元の場所に戻してその日は徒歩で帰った。
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