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闇は街談になる。
『ねぇ、聞いて?』
この問いかけから始まる会話が、今も日本のどこかでなされている他愛もない噂話。
『最近さぁ。誰かに覗かれてる気がするんだよね』
『うっそ!?あたしもあたしも!!』
『それって目だけ見えたりするヤツ?』
『そう!それ!』
『あれってさ、ホントに目だけ暗闇から見えるもんなの?』
『あたしは見たよ?彼と…見たもん』
『えー?!わたしはハッキリ見えなかったなー。でもパンツは下から見られた気がする』
『ええっ!それってさ、やっぱりアレ?』
『ヤミオ』
『ヤミオ』
『ヤミオ』
これらの会話から導かれるのは『ヤミオ』なる言葉。
即ち、【闇男】もしくは【病男】と呼ばれる怪異である。
風説によると【ヤミオ】はこの世の全てに絶望し、アパートの部屋を真っ暗にして黒い塗料を全身に塗りたくって奇声を上げたあと、もう世の中の何も見たくないと言い放ちざまに両の目を指でほじくり出してベランダに置き、しまいには衆人環視が見守る中、自分の部屋に火を放って焼身自殺を遂げたらしい。
らしいと言うのは、彼が住んでいたとされるアパートは何十年も前に更地になり、今は高速道路か幹線道路の土台となる土地になったからで、実際にはその土地が、日本のどこにあったのか誰にも特定できなくなってしまったからだ。
しかし、真っ黒焦げになり、灰にもなった彼はこの世に未練があるらしく、ベランダに置いていた為に焼けずに済んだ両目を持って下水道やら暗渠やら公園の木陰やら天井やら押入れの中などの、兎に角暗い日常にある場所から時折出没し、“目だけを外に出して”人の情事やら秘事やらスカートの中などをノゾキに来るらしい。
『でもさ、目が合ったらヤバいらしいよ?』
『あっ!知ってる!昔さ、不倫カップルが車の中でシテル時に目が合って、窓に真っ黒な手がバンバンいっぱい張り付いて怖くなって裸で逃げたって!』
『それで不倫バレて警察も来て家族も来て大変だったてね!怖い!!』
どうやら【ヤミオ】にあったら、目だけは合わさないほうが無難なようである。
そんなどこにでもありそうな噂話が、日本中ではされていた。
おわり。
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