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闇に焦がれ。
たとえば。
自分を普通の人とは違う。
他に居そうな気がする。でも居るようには見えないタイプ。
もし居たとしても、これまであったことがない。何者かはわからない。
姿すらも読み取れない。陰のよう。
そんな風に、本来の自分を偽って隠して消して捨て去って、闇に紛れこんでみたい。
そんな風に他人に認識されない。され難い存在に一度はなってみたい。
そう、思ったことはないかい?
僕はそうなりたいと思い、そして濃い闇に溶ける黒になった。
照りつける真夏の光も100%に限りなく近い値で取り込み、決して外界に逃さない。丸いものも形が複雑なモノも何もかも吸い込み、ブラックホールみたいに黒よりも黒い暗黒色になる。そんな感じに歪みなく闇を個人単位で手にする事が出来る塗料が実際に存在する。
僕の部屋に散乱する空の塗料の容器がそれだ。
僕は、僕をこの世の勇ましくも憂鬱な只中の世界から掻き消してくれる品。
でもそれでいて、多少なりとも人に関わって日常を覗き見ることが可能な、宵闇や暗闇に潜むにはもってこいの、こんなにも便利な塗布剤を衣服やときには身体に塗りたくって、今日もまた日常風景から解脱して夜の帳を彷徨い歩く。
つまり僕は、そんな些細な僕の欲求を満たしてくれた事実の話をしようと思っているのだ。
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