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闇に病み。
AV。
所謂【アダルト・ビデオ】と言う映像作品をご存知だろうか?
老若男女を虜にしたりしなかったり、出演したりしなかったりしつつ半世紀に渡り人々を魅了してやまない、その長い歴史を物語るように未だ【ビデオ】などと言う、おおよそ一般的には使われなくなって久しい、映像録画再生機器を名称に含む映像ジャンルの雄のひとつである。
このAV。
「僕が生まれる遥か前から存在するけど、言ってみればこれって性欲を満たす前に、人の秘密を密かに見ているような【のぞき】の欲求を叶えてくれるアイテムだよね」
普通。身内や他人であっても、意図的に自身の情欲によって人の情事を伺い知る事はご法度なのが、世の理と言っても過言では無いだろう。
詰まるところ【のぞき】を発見されればタダでは済まず、下手をすれば実刑に問われ、それまでの業績や裁判の結果次第では数年に渡り、“高い塀の向う側が自分の棲息空間”になってしまう場合だってあり得る話なのだ。
だが、その危険性を法律に触れない安全な範疇から守り、他人のあられな行状を思う存分【のぞき】まくっても18歳以上ならば大丈夫なアイテムが、この地球上には存在する。
そう、それは。見ている自分自身が出演者として致して居ないにも拘わらず、なんか頑張ってるような気分を味わう事ができるマジックアイテム。
実際の自分は単に【疑似のぞき】体験をしているとも気付かずに、AVを通じて人には生なか御知らせする事も出来ない所行に及んで勝手に達しているのである。
つまり、僕が黒ずくめで【のぞき】に興ずるのは、AVの仕組みを通して【安全安心な快楽生活】を満喫するのと同じく、光の眩い場所でなければある意味輝けるアイテム【黒よりも黒い全身タイツに目出し帽】に、収穫前の稲穂の如く深い感謝の念で頭が下がる思いである。
「てな意味のない言い訳をしながら僕は、人の隠し事を今日も御伺に参るのだ」
街中の地下を流れる川。暗渠の隙間から目だけを出し、休みだというのに昼間から、通りすがるスカートの女の子が頭上を過ぎてくれないものかとひたすら待っている。
結局のところ、黒くなって暗闇の狭間に潜む。それだけで身元がバレない。
なんて完全な保証はないから、まるで関係のない偶像を話の筋から別物と理解しながらしがみ付いて、僕は自分を鼓舞するしかなかった。
「人間てさ。なんだかんだ言いつつ皆等しく変態なんだよな」
だから大丈夫。僕は大丈夫。
非合法だけどそんなに悪いことはしていない。
そうやって僕はまた、すっかり犯罪者な自分を正当化する為に、AV関係者どころか人間を他人を全部敵に回しても平気な顔をしていられるような、そんな木石漢な人ならざるモノになって仕舞うような、なってきたような、変な気分になった。
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