闇に潜り。

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闇に潜り。

 家がなくなった。  アパートはいつしか更地になり、僕は案の定無職になった。 「全身、眼以外は真っ黒けなのにムショク(無色)とはこれいかに」  僕は撤去された旧掘っ立て小屋跡地に座り、林というよりかは再開発の趣が色濃くなった掘り返さリ刈られたりしている元林(もとはやし)の生き残りの楓の(たもと)に座り、頭の悪そうなダジャレを呟きつつ、さて、これからどうしたものか。と、毎夜考えている議題に取り組む。  金もない。  職もない。  友達も親戚もいない。  着替える服だってない。  戸籍はあるかもしれないけど、たぶんもう行方不明者リスト入りしてるに違いない。  アパートが焼けてからどれだけの日数がたったのかすらもわからない。  あるのは両手いっぱいのダンボールに詰まった黒よりも黒くなる塗料に、あとは塗料で染め上げた全身タイツと目出し帽と、最近色移りが激しくなって影みたいになった自分の身体だけ。  毎日ナニを食べて生活をしているのかも思い出せない。  わかるのはひたすら暗闇を求め、暗闇から外には出ないように生活していることと、やたらと目玉が痒いことくらい。  そして僕は仕方ないから今日もまた、趣味の、というよりも活動がこれしか無くなった“ノゾキとイタズラ”を仕掛けるため、側溝(そっこう)暗渠(あんきょ)や押入れや天井やベット下や入居者のいない部屋の隙間から外界に目だけを出して、外の人間を驚かせている。    
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