Another View—深黒の夢—

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Another View—深黒の夢—

※過激描写・残虐表現・性的描写・同性愛表現があるので苦手な方はページを閉じることを推奨します。  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  ——何で、こんな昔のことを今更思い出さなきゃいけないの?  あたしは研究所にいた。  気づいたときには研究所があたしの世界そのものだった。  両親の情報は何も知らない。  孤児だったのかすらわからない。  どうして研究所にいたのか。  研究員として素知らぬ顔で働いていたのか、判断が出来ない。  研究所では番号で呼ばれていたはずなのに、番号が思い出せない。  男女の生殖器と乳房のある自分。  受け入れるも何も、気づいたときには両性具有の身体だった。  特に不満はなかった。  だって、それが人間としてだと思っていたから。    研究所では様々な実験が行われていた。  あたしに施された実験は、あたしのみの生殖行為で人間一人を産めるかどうかが多かったと思う。  不思議に思えたのは、研究所を逃げ出した後。 「んく、深黒——」  なに……? だ、れ? 「夢に(うな)されてるのかな。時憂、大丈夫よ。あたしがこのままずーっと抱いててあげる」  もしかしてあたしが見た夢を時憂が拾った?  そっか。  今は時憂が居るんだね。  時憂が居ることを認識したら途端に空っぽな心が満たされていく。  結構あたしって単純なんだ。 「深黒! 深黒!! 起きなよ。せっかくうちが来てあげたんだから。助けに来たよ!」  だれ? 誰の声? 時憂なの? 「あーおはよう、時憂」 「時憂? 誰それ。ボケたの姉貴。うちは悠貴だよ」  ん、ゆ、うき? なんだゆうきか……。  ゆうき!? 「悠貴!!? 何で此処に居るの??」 「だーかーらー、姉貴を助けに来たんでしょ!!」 「そう、ありがとう。よくここがわかったわね。でも、危ないから帰りなさいな」 「だから来たんでしょ。あと携帯型電子端末持ってる限り居場所なんて丸わかりだよ?」 「まあそうでしょうね。外も危ないけど、ここも危ないわよ。万里に狙われても知らないから」 「誰が狙うって?」 「あら、万里おはよう。もう起きたの?」 「これだけ騒がれてたら嫌でも起きるわ!」 「……かっこいい。あの、万里さんでしたっけ? 彼女とか居ますか?」 「居ないけど、それがどうかしたの?」 「うちと付き合いませんか?」 「ワリぃ。俺、野郎と付き合う気はないんだわ」 「は? 見抜いてたの? こんな短時間で、完璧なナリのうちを?」 「当たり前ジャン」 「けっ、いーよ。オレに貢いでくれない男なんていらねーよ」  そう、たしかにこの子は見た目はどこからどう見てもギャルなのよね。  今時ヘソ出しとか見てて恥ずかしいけど、きっと悠貴はずっとこのまま生きていく気がするわ。  いつもマイペースであたしのピンチを察してくれる優しい子。  まさか今回も嗅ぎ分けてくるとは思わなかったけど、我が兄弟ながら読めないわ〜。 「うるさいなぁ。誰? 時憂の眠りを妨げるのは」 「ごめんね〜。時憂、起こしちゃった?」 「深黒ならいーよーって、深黒が二人!?」 「姉貴が言う時憂ってこの子のことかァ。はじめまして。双子の妹の悠貴でぇーす」 「妹? 何言ってんのよ。あんたは男でしょ」 「やん、お姉様。それは言・わ・な・い・で」 「深黒の兄弟……? 悠貴は実験に使われなかったのか?」 「うん。姉貴に産んでもらったから」 「え?」「は?」  時憂と万里がぽかーんと口を開けて静止してる。  まあそんなこと言われたらそうなるわよね。 「もう、悠貴。ややこしい言い方しないで」 「間違ってることは言ってるつもりないよ」 「えっとね、あたしの腹ん中に悠貴が居たらしいのよ。それには研究所の誰も気づかなくて。あたしが五歳の時にあたしから悠貴が生まれたの。でもそうね、双子ではちょくちょくあるケースらしいわ」 「それで、悠貴は」  時憂が納得したように頷いている。  裏表のない言葉がどんなにあたしを救っているのか、時憂はまだわかってないでしょうね。 「オハヨウ。……あれ? 悠貴じゃん。久しぶり」 「あれ、幻真って悠貴のこと知ってんの?」 「うん、知ってるよ。兄貴も知ってるでしょ?」 「いや? ン? 時憂、何驚いてんだ? ああ、いつもはしっかり覚醒してからしか朝顔を合わせてなかったか。こいつは寝起きのテンポが普段と違うぞ。人格が180度違うからな」 「兄貴と時憂に説明してあげる。俺がバンドをやってたとき、客の中に悠貴が居たことがあったんだよ。めちゃくちゃノリノリで聞いてくれてて。俺、そんとき嬉しかったから、悠貴のこと覚えてる」 「ありがと。だって、この国じゃそーゆー音楽ダメじゃない? なのに、やってるだけでも感動モノなのに、幻真君のギター超上手だったんだもん」 「上手? なんか嬉しいな。へへへ」 「ぞぞぞ。万里、こいつ本当に幻真なのかぁ?」 「俺も疑いたくなってきた」  悠貴ったら幻真君のライブを観に行ってたのね。  あたしも知らなかったじゃない。  あとでその辺りの話を聞かせてもらおうかしら。 「ねぇ、姉貴。研究所にはいつ殴り込むの? そういう話してたよね」 「そうね。……ねぇ、万里。いつなのかしら?」 「今日」 「「「ええーーーーーーーーーー!!!!!」」」 「面倒なことは早いほうがいーじゃん。ほらほら、みんなとっとと支度しろよ」 「そんなこと言われたって……。はあ。万里が前言を撤回することなんてないわね。準備するから待って」  あたしの言葉を皮切りに各々準備を開始した。
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