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プロローグ
もう初夏だというのに狂い咲きの淡紅色の桜が視界いっぱいに入ってくる。
満開だ。
自分だけは違うと主張するかのように咲き乱れていた。
周りの桜の木はもう疾うに咲き散って、新緑で身を飾っているというのに。
協調性ってものがないらしい。
数え切れない桜の中でひとつだけ異なった残桜に惹かれた。
あんなにキレイに咲けていないけど、あれじゃまるで俺みたいだと。
視界を度々遮るモノが邪魔だ。
花に心を奪われたまま惚けることすらできない。
死んでしまえばいいのに。
屋上には三十人程度の人間が囲むように居て、去る気配を見せない。
久しぶりに見る青空も俺を憐んでくれているように見えた。
雲一つない青天に邪魔な人影が数十とある。
不愉快を通り越して面白くなってくる。
性別と服装だけは統一されている群れ。
名前も覚えていない——唯一武器らしい武器を持っていない——男と目が合う。
真っ白と形容するほかないギターの音が頭の中で鳴り始めた。
ギュイーンと音が重なり増えて共鳴する。
チューニングのできていない雑味のあるずれた音色。
不快なのにどこか懐かしい警告音。
(この現象は何かを直感した時に起こる)
ということは、何かしら俺は感じているらしいな。
子供の頃からこのエレキギターの響きは聞こえていた。
あの時もあの時も。
ただただ現実から逃避したい気持ちを察したかのように。
どうしようもない悪夢から逃れる術も仲間も持ち合わせていなかったあの頃に。
巻き戻っている。
我ながら笑えてくるぜ。
昔から俺は同じく一人。
たかだか数十人。
大したことはない、と言いたいところだけど……。
はあ……。
ああ、本当に現実逃避しているのかもしれないな、この地獄から。
どうしてこうなったんだか。
さっきまで頂点とまでいわなくても結構良いポジションにいたじゃん。
なのに、三十数人の生徒たちに俺は取り囲まれている。
金属バッドを装備する奴の多いこと。
大人気武器だね。
ゴルフクラブは二位ぐらいか?
どこから調達したのかなんて考えたくもないね。
まだ武器は構えているものの動きはない段階。
喜んで良いのかわからないけれど。
俺一人に今までとこれからで何人死ぬんだろう。
これからが俺にあればだが。
「この貧乏な国は、俺に相当な額を賭けたらしい」
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