昔馴染み

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昔馴染み

※性的表現・同性愛表現があるので苦手な方はページを閉じることを推奨します。  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  昨日もシャワーを浴びたはずなのに、殺人的に違う。  綺麗なが体に触れていくのが気持ちいい。  久しぶりに感じてしまう。  熱いぐらいの湯がすべてを洗い流してくれるみたいだ。  流れるわけなんてないのはわかっているけど。  俺、これからどうなるんだろうな。  生き延びられるのかな。  兄貴とはいつまで一緒に居られるんだろう。  今は考えるのは止そう。  ラブホテルのシャンプーは香りが強くて、今はそれがいい。  いろんなものを上書きしてくれそうでいい。  しゃかしゃか泡立てて頭を洗う。 「幻真! 大変なことが起きた……」  風呂場に濡れるのも構わず兄貴が入ってきた。  俺はというと泡だらけの頭を流してる最中だった。 「お、驚くだろ。急にどうしたんだよ」 「深黒(シンク)ちゃんが狙われることになった」 「狙われるって俺のように?」 「ああ。とりあえず深黒に連絡する。今、政府放送で流れてるんだよ、クソッ。あとそうだ、髪染めとけよ。言い忘れてたが、ある学校の入学手続きをしてある。詳しいことは後だ!」  返事も聞かず、髪染めを投げてくる。  兄貴は来たとき以上に慌ただしく出て行った。  湯船にお湯が溜まる音と流しっぱなしのシャワーの音だけが残った。  渡された髪染めを見る。  黒髪戻し。  学校がどうとか言ってたっけ。  あと変装の意味もあるのか?  ブリーチし直そうと思ってたのになぁ、と少し残念がる。  パッケージを開封して、液剤を調合する。  適当に髪に塗りたくる。  いつも自分で染めたり抜いてるだけに我ながら手慣れていると思った。  湯には触れないよう注意しつつ湯船に浸かる。  三十分はこの状態でいよう。  兄貴の言葉がリフレインする。  深黒が狙われる?  俺と同じように能力を持つのか?  いや、どうなんだ……あ、そうか。  そういうことか。  深黒はバイオキシンのせいで性別がめちゃくちゃなんだった。  バイオキシンってのが何なのかは深黒が詳細を教えてくれないから不明だけど。  深黒の体には胸もあるし、サオもあって、ヴァギナもある、らしい。  俺から辿られて研究のために目をつけられたのかもしれない。  しかも、あいつ基本ペドフィリア(これは研究に関係ないだろうが)だからな。  13歳ぐらいの女の子連れてると思ったら、9歳ぐらいの男の子連れてたりもするし。  あいつ26歳とかだろ?  わかんねーな、俺には。  どうせ十年も経ちゃ子供じゃなくなるんだぜ。  そん時はどうするんだろーね。  人のことは言えないけどな。  なんてったって性行為拒否症(語句を並べてみただけ)だからね。  染め上がりました。  液剤を落としシャンプーし直す。  その頃にはすっかりいつもの調子に戻ってきていた。  体も洗い直したし、さてと風呂から上がって着替えるか。  ついでに持ってきておいたカラーコンタクトも装着しておくか、蒼だけど。  誰があのボタンを押したか知らないが、浴室が丸見えになっていた。  「あ! 幻真君だあ。久しぶり(わぁ、裸だ! 眼福眼福〜)」とでも言ってそうな、はしゃぎぶりの深黒が俺に手を振っている。  裸を見せる趣味はないよ?  手早くバスタオルを纏い、洗面所兼脱衣所へ向かう。  別のタオルで髪の水分を吸わせて、着替えを手に取ろうとした。  置いておいたはずの服が、ない。  深黒が悪戯でもしたんじゃないかと思ってドアを開けて見る。  相変わらず髪が長いな深黒は。  腰まではあるな。  じゃなくて、俺の服……と思ったけど。  なんだあの服装は……。  セーラー服なんて何で着てるんだよ。  しかもクラシカルな感じの。  それになんだ?  深黒の後ろに隠れるように居る真面目そうなガキは。  黒髪ストレートのショートカットって、絵に描いたような子供が何で居る? 「あ、この子? あたしの恋人の時憂(ジウ)君」 「はじめまして」  このガキが口を開いたら穏やかだった空気の流れが変わった……?  というか、服が行方知れずで真っ裸のままなんだが。  服ぐらい着たいんだけど。  兄貴が無言で学ランを渡してくる。  え? これを着ろと?  コスプレ大会か何かですか?  仕方なく渡された衣装(俺にはコスプレのコスチュームにしか思えない)を着ることにした。  ガキはずっと俺を見ていた。  何だよと思って見ると、こっちの意図が通じたらしい。 「深黒が望むなら、仲良くしてあげてもいいけどな」  想像と違わない言葉が返ってきた。  やっぱり、可愛くない類いのガキか。 「時憂、止めとけ。このにーちゃん子供とか女とか関係なくマジでキレるから」    兄貴がガキに諭している。  なら、聞く相手は一人だよな。 「深黒、こいつ()ってもいいか?」 「だめだめ。あたしの愛しい王子サマなんだから」 「へいへい」  どう見てもこいつ10歳ぐらいだぞ。  深黒の趣味なのか俺に似通ったパンク小僧っぽい服装をしていた。  英語でdisappearanceって書かれたTシャツに鱗柄のストールを首に巻いている。  ぱっと見ると真面目で純粋そうな目をしてるけど、中身は真逆だろこいつ。  染めたてみたいな黒髪が嫌に印象に残った。
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