Another View—万里・学園編—

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Another View—万里・学園編—

 何年ぶりかわからない学ランに身を包む。  何の変哲もない堅苦しい型にはめた制服。  自分が立てた作戦だとはいえ、こんな日が来るなんてね。  俺は時憂と同じクラスに編入になった。  全員偽名を使う手はずになっている。  時憂は黒沢ナオト、俺は神無月ユウジとしてしばらく過ごす。  俺とは違う理由で学校に通ったことのない時憂は不安げにしながらも、心躍らせているようにも見えた。  多少テンションが上がってるぐらいがちょうど良いだろうと目を瞑ることにしている。  担任教師に連れられて廊下を歩く。  時憂は不遜そうな態度で案外堂々としていた。  教室の扉が開かれ、中へ入る。  こちらを生徒たちが無機質な目で見ていたのは一瞬で、すぐにどこにでもいるような幼気ない子供の顔に変わった。 「はいはい、静かに。今日からこの教室でみんなと勉強するクラスメイトを紹介する。神無月ユウジと黒沢ナオトだ。仲良くしてやってくれ。あと、そうだな。神無月と黒沢から自己紹介をしてもらおうか」  油断せず教師の一言一句を考える。  俺たちの正体を知っていて泳がせている可能性はあるのか? 「ドーモ。聞いたとおり名前は神無月ユウジです。センセ、あと何言えばいっすか?」 「趣味とか誕生日とかいろいろあるだろ」 「誕生日は三月十九日。以上です」  とぼけたふりをしてみる。  こういうのはそこそこ得意なのよね。  だけどまぁやってらんねーぜ。  俺社会人だってーの。  若く見えてもあいつ(深黒)も社会人真っ直中だってーの。  と、毒づくのは高校生の雰囲気を出すためって言ったら信じる?  俺に続いて時憂が自己紹介を始める。 「黒沢ナオトだ。生年月日不詳。趣味はない。終わり」  生年月日不詳ね、後で調べてやろ。  ぞんざいな自己紹介に咎められることもなく、ホームルームは進んでいく。 「神無月は斉藤の隣だ。手でも上げてやれ。黒沢は椎葉の隣だな」  手を上げてくれた斉藤って子は可愛い女の子だった。  薄茶色の髪は軽くウェーブがかかっていて、肩まで伸びている。  化粧もしていて、垢抜けた印象がある。  ちなみに女子はセーラー服だっていうクラシカルな徹底ぶり。  有事の際を考えて軍服を模しているという情報は真実だろうか。 「ヨロシクね、神無月君」 「ユウジでいいよ。名字は堅苦しいっしょ?」  時憂はどうしているかというと。  ——感覚を軽く研ぎ澄ませれば、教室内を把握することぐらいはなんてこない。  まあ、仕事はサボりがちだから真剣になることなんてしれてるけど。 「よろしく、黒沢」 「ヨロシク椎葉君」  ぎこちなく返答している時憂は、多少緊張しているのかな?  椎葉と呼ばれた男子生徒は無害そうな真面目で優しそうな見た目はしている。  はてさて中身はどうなんだろうね。  授業は淡々と進む。  ただ受講すれば良い、そういうスタンス。  エスカレーター式だからだとかこの学園だからじゃない。  この国は百年前にはもう、こういうカタチが出来上がっていたらしい。  途中で降りてリタイアした俺はあまり馴染みがない。  両親も俺を慕ってくれている弟すらも放ったらかして他の国に遊びに行ってたもんだから。
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