最終目標の研究所で悪夢の再会

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最終目標の研究所で悪夢の再会

 俺たちは準備をした。  悠貴かぁ、会うのはいつ以来だ?  結局、悠貴は深黒に諭されて帰って行ったけど。  ……悠貴?  『オマエハおれナンダヨ。オマエノつみヲ忘レルナ』  つ、み? 罪。  今の今まで忘れていた。  何てことだよ。  何してんだよ、俺は!? 「兄貴!! まだなのか!!」 「お、ビビったー。お前も調子出てきたね」 「まだ出発しないのか?」  はやく、はやく研究所に行かせてくれ。  罪、ごめんな。俺、忘れてて……。  いや、まさか。  研究所で記憶を消されていた……? 「ねぇ、万里。幻真君の様子おかしくない?」 「俺もそう思うよ、深黒ちゃん」 「万里兄貴。まだなのか?」 「んー? みんな用意できたか? おし。なら行くぞ」  ひたすら気持ちが()いていた。  悠貴と再会していきなり開いた記憶の筐(パンドラボックス)の情報に俺は焦っている。  どうして俺は、現偽(ゲンギ)のことをもっとはやく思い出せなかったのか。  いつだって思い出せるきっかけはあったはずだ。  現偽、無事でいてくれよ。  頭の中の思考と向き合っている間に、大きくて威圧感のある建物が近づいてきていた。  ここだな、。  そして人を殺めた場所。  研究所はやたらとでかいが地上階はダミーだ。  地下にある施設が俺たちの本命らしい。 「とうとう来たな」 「そうだな、兄貴」 「幻真君、落ち着いたみたいね」 「まぁね」 「時憂はこの研究所を潰して、兄貴の敵を取るんだ。深黒のためにも」 「ありがとう」  研究所自体は一応学生にも開放されている区画があるため、難なく侵入することができた。  といっても開放されているのは、職場見学ができる期間だけらしい。  その期間を俺たちは待っていたってことだった。  ここまで来ると、兄貴の秘密主義にはある意味脱帽だ。  兄貴が先だって何か仕掛けていたのか、たまたまこの辺りに人がいないだけなのかわからないが、踏み込んだ研究所内部に人影はない。  地下への入り口には何かを埋め込むくぼみがあった。 「これは、手の形か?」  俺は兄貴が言い終える前に手をくぼみに合わせていた。  扉は静かに開いていく。 「幻真、知ってたのか?」  俺は黙って微笑み返した。 「右にある水槽の中には、いろんな動物と人間を交わらせた生き物が入っているんだ。反対側の水槽にはクローン人間が入っている」  ……俺、何を言っているんだ? 「ごめん。俺は何を言ってるんだろうな」 「気にするな。深黒!! 誰かいる!」 「誰!」 「怖いわねぇ。せっかく貴方たちのことを案内してあげようと思ったのに」 「環奈」 「幻真! 生きてたのね。嬉しいわ。でもね」 「“逢ったとしたら其れは私か貴方が消える時”だろ?」 「覚えていたのね。………………私の事も忘れてくれたら良かったのに……」 「え?」  やっと逢えた環奈から不穏な言葉が小さく聞こえた気がした。  研究所に来てから俺が俺でなくなるようなチープな感覚が続いている。  俺は、俺か? 「兄貴!! 騙されちゃダメだ! そいつは兄貴の知ってる環奈さんじゃない!!」  そう叫んだのは俺じゃない。  だけど見た目は俺にそっくりな男が現れていた。  目立つのは勿忘草色の髪。  俺とは逆に流されているアシンメトリーになっている髪型。  左側の長さは胸元辺り、右側は顎の下まで伸びている。  黒色の左目と違って右目はスカイブルーだ。  二匹の羊が描かれたモノクロTシャツ、片脚だけ長いパンツの短い方にはレッグウォーマーみたいな形の布を安全ピンでガーターベルトみたいに留めている、足下は編み上げのロングブーツ。  まるで鏡写しの俺だった。 「お前……幻真の何だ?!」 「俺は幻真の双子の弟だよ」 「現偽か……? よかった! 無事だったんだな」  俺は現偽と抱擁した。  研究所に来てようやく忘れていたことを思い出した俺の懸念事項の一つ。   「幻真、それはどういうことだ?」 「どういうことって、こういうことだよ。俺には。けれど、研究所に弟を攫われてしまった。その上、弟に関する記憶を消されてしまい、今まで忘れていたってことだよ。研究所に関することも思い出した」  そう思い出したんだ。  俺と現偽は犬っころのようにじゃれてよく遊んでいた。  でも、ある日は消えていた、俺の記憶からも。 「の所悪いんだけど、行きません? そろそろ」  環奈のその声に我に返る。  現偽の手を離した。  そのことを後悔してももう遅い。 「いろいろ愚弟のことがわからないのはいつものことだとして、外園! 華姫に、姫に会わせろ!!」  感情を抑えきれないといった感じで兄貴は環奈の肩を掴んだ。  こんな兄貴は見た覚えがない。 「もう、辛抱が足りないのね……。いいわ、こっちにきて」  環奈が先頭に立って歩く方へとぞろぞろついていく。  現偽は環奈の腰に手を回し、まるで俺に見せつけるかのように歩いている。  いや、考えすぎだろ。  どうしてやっと会えた弟に嫉妬してるんだ?  それに現偽は何か俺に言っていなかったか?  まあいい。  それにしても直前に入り込んできた。 『オマエハおれナンダヨ。オマエノつみヲ忘レルナ』  あの記憶。 『オマエハおれナンダヨ。オマエノつみヲ忘レルナ』  この研究所は一体俺の何だ? 「万里君。華姫ちゃんに会いたかったら戦って」  環奈に連れられてきた薄暗かったフロアは、ライトに照らされる。  室内には裸の男と女が数人ずついるように見えた。  その中には—— 「華姫!?」 「とてもよく似てるけれど、そうじゃないわね。貴方たち兄弟がそう信じていたモノかしら。そこにいるのは、No.13。華姫ちゃんの身代わりをしていてくれた実験体よ」 「私は渡辺華姫。万里君、幻真君、久しぶり」 「ぐっ……俺はお前を姫と認めない、姿形や声がただ似てるだけだ」 「兄貴……」  兄貴はそう言うが、俺には見分けがつかないぐらいそっくりだ。  そいつだけちゃんと服を着ていて、服のセンスも姫と同じといって遜色ないぐらいで。 「このNo.4〜No.13までの実験体と戦って勝ったら、華姫ちゃんに会わせてあげるわ万里君」 「上等じゃねぇか」  どこからか銃を取り出し、というよりも認識したときにはもう兄貴が撃った後だった。  頭、胸、脚、腕、額、首、腹、脚。  姫に似たNo.13にだけは、銃は撃たれていない。  たいした運動量はないはずなのに、全身汗だくで吐きそうな顔をしている。 「はぁはぁ……」 「万里兄貴……」 「万里大丈夫なの?」 「万里」  深黒や時憂が口々に兄貴の名を呼ぶ。  だが耳には入っていないようだ。 「万里君が攻撃できないなら、私から攻撃するね」  偽りの笑顔とわかる笑みで笑うとNo.13は兄貴目がけて駆け寄り、顎を膝蹴りした。  体が浮いたところに肘を思い切り顔面に入れて、壁に打ち付けた。  無抵抗なのをいいことにNO.13は、殴る蹴るをループして繰り出し続けている。 「兄貴っ!!」 「ぐはあっ!」  弱々しくNo.13に手を伸ばし「華姫」と姫の名を呼んでいる。  俺は勝手に兄貴の気持ちを引き継ぐ決意をした。 「環奈。俺が勝っても姫に合わせてくれるな? だってお前らは、俺と兄貴の比較データが欲しいんだろ?」 「そうよ。私から言わなくても求めてるモノをくれるのは相変わらずなのね」 「No.13、俺とランデブーしない?」
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