No.13 VS 幻真

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No.13 VS 幻真

「深黒、時憂。兄貴のこと頼む!」 「任せとけ、幻真」 「幻真君も気をつけて!」  兄貴と違って銃みたいな武器はない。  けど、俺にはこの忌まわしい能力がある!  No.13の心臓に狙いを定めて、間合いを詰める。  距離は……縮まらない! 「幻真君の能力は知ってるよ? だって私、研究してたもん」 「あ……」 「そうよ? 貴方たちが華姫ちゃんだと思って接してたのはこの子、No.13だったりするんだから」  言葉に振り回されるもんか。  何か方法はないか、何か……。 『あなたは、愚かな考える人のモデルに選ばれました。とても素敵で不埒な裸体を曝しましょう』  ああ、もう、黙れ!  とにかく戦う、隙を狙う。  華姫の偽物に近づかないことにはどうにもならない。  幾度か蹴りを躱していると、隙が生まれた。  結構簡単に近づくことができて安堵する。  No.13が更に顔を寄せ、耳元で俺に囁いた。 (環奈は) (幻真のことが) (嫌いだったって言ってたよ) 「…………っっ!」  思わず耳を傾けてしまったが、これ以上聞きたくなくて距離を自分から取ってしまった。 「こっちにおいでよ、幻真君」 「幻真君! 挑発に乗る必要はない。幻真君のペースで大丈夫!」 「幻真、無理するな」  深黒と時憂が口々に気遣った言葉をかけてくれている。  二人をチラ見したときに、見た目よりも精神がぼろぼろにやられた兄貴が目に入った。  カッと心が熱くなった。  環奈のことで傷ついてる場合じゃないだろ。  兄貴があんなにやられてんだぜ?  あのNo.13に!  再び距離を縮めるべくNo.13の懐に向かってダッシュする。  「ほぉ」と現偽が声をあげた気がした。 「うん、おいでよ。また聞かせてあげ——」 「うるせぇよ」  先に手で口を塞ぐ。  すぐさま心臓に手を当てようと——  瞬間、硬直するNo.13。  そして俺の手が触れ、生きたまますべての営みを俺に止められた。 「な、No.零め……」 「……!」  No.13の最後の言葉に、現偽がコントロールしたんだ、と思考しようとする前に異常なほどの食欲が湧き起こる。  止められない——  口を大きく開いて、涎をだらしなく垂らしそうになっていたところに現偽の手が俺の肩に触れた。  いつの間に、こんなに近づいていた?  現偽が俺に触れたことで欲がコントロールされ、抑えられた。  なんで俺は自然とこの現象を受け入れている? 「ありがとう」 「礼なんかいい。同じ顔が暴走するところが見たくなかったからね、なーんて」  冗談交じりに言ってるが、冗談じゃないことはわかった。  俺は本当に現偽を信じていて良いのか? 「あら。No.13に勝ったのね、計算通り。なら、華姫ちゃんの元に連れて行ってあげましょうか」  澄ました顔でNo.13に一瞥くれただけで先を進める環奈。  環奈はこんな女だったか?  これが本性なのか?  わからないことばかり増えていく。  兄貴は気丈にも自分の足で歩くと、俺の肩を借りることなく歩いて行く。  深黒も時憂も心配そうに兄貴を見ている。  なんだかみんながバラバラになっていく感覚だ。  環奈に続いて階段を降りていくと、円柱の水槽みたいな液体の入った筒がいくつも不気味に光る広い空間に出た。  ぽつんと一人誰かが佇んでいた。  兄貴を見て短い悲鳴を上げて駈けてくる。 「万里!!」 「華姫……!!」  抱き留める兄貴。  なんだ、NO.13なんかよりずっと可愛いじゃん。 「ねぇ、この傷はどうしたの? 痛くない?」 「…………」  言葉に詰まる兄貴や俺たち。言えるわけがない。 「貴方の代わりを務めていたNO.13が万里君に付けた傷よ? ちゃあんと癒やしてあげなきゃ」 「……え?」 「環奈!!」 「なあに?」  悪びれる様子もねぇ。  本当にをしたと思ってやがる。 「か、華姫? 姫!」 「気絶、しちゃったみたいね」 「外園、てめぇ!」 「待てよ」 「誰だ!?」  聞いたことのあるような、ない声が聞こえた。  男なのか? 「初めましてだな。お前らのことは知ってる。華姫の中のもう一つの人格、悪沙(ワルサ)だ」 「もう一つの人格?」 「まぁ、そのまま聞けよ。オレも初めて表に出ることになって戸惑ってんだ。環奈を見てもわかるだろ?」  付き合っていた頃から考えても見たことがないほど驚いた顔をして、手元の電子端末に色々打ち込んでいるようだった。  現偽は現偽で手を組んで壁に背を預けたまま「ふ〜ん」と様子を見ている。 「万里、あんたと話がしたくて表に出てきた。環奈、少し時間をくれ」 「私も同席させてくれるならね」 「構わない」 「姫は、姫の体は大丈夫なのか?」 「大丈夫だ。もう一つの人格、オレよりずっと優しい哀奈(アイナ)が看てくれてる。じゃあ幻真。ちょっと兄さん借りるな」
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