明らかに俺はこの日「変わった」

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明らかに俺はこの日「変わった」

※性的表現及び暴力描写・残酷描写があるので苦手な方はページを閉じることを推奨します。  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  「げんくん、とにかくお風呂でも入ってきたらどうだい?」 「うんうん、おじさんたちがちゃんと安全なように見張っておいてあげるから」  もう隠しもせず開き直って俺と交わる気でいるのか?  テカリ顔たちの持つ気配がさっきよりも緩んだ。  下卑た笑みを浮かべている口元は弛み切っているように見える。  そういう暢気な提案をしてくるということは、包囲網が敷かれていると考えるべきか……?  そうなると俺が取れる行動は—— 「うん」  望む行為に応じて茶番を始めよう。  彼女(ははおや)(ちちおや)の亡骸のある家で。  目の前で(ちちおや)を殺さんばかりに殴り続けた俺と。  隙を作るために体を使。  とりあえず、言われた通り風呂に入ることにしよう。  シャワーを浴びたい気持ちは正直なところあった。  移動しようとする俺の後ろでテカリ顔らしき声が聞こえる。  大きな声で熱弁を振るっている。  眼鏡男が小声で何か言っているのが聞こえた。 「もう、お前らはいい。今日のところは帰れ。十分役立ってくれた。明日は予定通り実行に移す。いいな?」  うっすらと聞こえた内容はおそらくこういったものだった。  想像通りの流れで満足だ。  明日までに活路を見出す。  そこまでして俺は生きたいんだろうか。    何か武器になりそうなものを調達する必要は……ひょっとするとないかもな。  俺の部屋で致したいとか抜かす気がした。  それにしても俺に聞かれて困りそうな伝達は、せめて携帯型電子端末でやり取りしろよ。  イマドキは苦手なお年頃ってやつか?  先に2階に行き着替えを取ってこようと階段に足をかけたところで、二人に「ゆっくりキレイに洗っておいで」といった趣旨の言葉をかけられた。  風呂に入るふりをして逃げないよう見張ってるぞということなんだろう。  無理そうなのはそんな風に釘を刺されなくても理解している。  いや、そもそも俺は逃げることは考えていないかもしれない、物理的には。  精神的にはもうすっかり諦めモードでおっさんたちの好きにされても仕方ないと白旗を上げている。  逃げているのは心。  脱衣所で服を脱ぐ。  服は当然血まみれ。  もうこれは捨てるしかないなと適当に床にまとめておいた。  そして、浴室の扉を開けて入る。  当然湯を溜めたり準備などしていない。  そのため若干ひんやりとした空気が体に当たる。  シャワーを浴びる前に自分の体を確認した。  浴室の鏡には浴びた血が浸透して肌が斑模様になっている。  赤さは足りない。  赤。  風呂から上がりバスタオルに水分を吸収させているとテカリ顔が入ってきた。  腰に手を回される。  手慣れた様子で俺を二階へと誘う。  俺の部屋かと思えば、何のために用意されていたのか目的をすっかりはき違えたままの兄貴の部屋だったいつもの部屋に案内された。  (ちちおや)が俺をいたぶる時に使用される部屋。  (ちちおや)が俺を売り物にする時に使用される部屋。  アイマスクと耳栓をつけることを要求されるため、思い出の中での間取りしかわからない。  ベッドとパソコンデスクと本棚とクローゼットがあったとは思う。  電気も点けられず真っ暗なはずで色合いも忘れてしまっている。  今日も兄貴の部屋の扉の前でアイマスクを着けるよう指示された。  耳栓はない。  確実におっさんたちは開き直っていた。    扉が開かれる音がして俺は中へ入るよう促される。  そして案の定、俺はベッドの上に転がされる。  腰に巻いたタオルを脱がされた。  いや、かされるのかな。  脱がされるといっても始めから裸同然。 「げんくんは賢い子だから気づいているんだろう? ほら君も気持ちよくなりなさい」  どっちかが言うなり口にを頬張らされ、頭を押さえつけられる。  口の中に塩っぱい味が腐食化が進むようにじわじわと広がる。 「いい子だ」  明日で俺の命は尽きるから、最後ぐらいイイ思いをしておきたいって心理か。  何も隠すことなく大胆不敵に無敵に俺を求める。  アイマスクは今日の場合ただの嗜好なんだろう。  いいのかよ、今までのことはなかったことにしておかなくて。  必死に関係を隠してたのに。  俺にはバレないようにって。  本当に俺は終わるんだな。  って求められるまま応じる俺もどうかと思うけども。  仕方ないじゃん?  こうんだから。  口の中を犯して善がるのはきっとテカリ顔で、俺の中にぶち込んで喘いでるのが眼鏡なんだろうか。  嫌悪と快楽と現実逃避のメンタルで体も頭も綯い交ぜ(ないまぜ)になる。  側から見れば悪夢のような時間が流れているのだろう。  もう俺には悪夢なのかどうかでさえ区別がつかないなんて。  慣れってのは恐ろしい。 「ん、いいよ、げんくん。もっと先の方も君の舌で……」  『お客さん、ここからは別料金になるんですよ。すみませんねぇ、こちらも商売なもんで』  もう一人の俺がこの事態を茶化す。  ……吐き気がする。  三人プレイなんてよく思いつくもんだ。  俺はいいように扱われる。  もういい加減うんざりしているのに、俺の体は言われるがままに動く。  好きでもない奴と交わるなんて面倒なだけなのに。  俺の最期の思い出はこんな汚いもので終わるのか……?  バンッ!  俺の後方で鈍い爆竹みたいな音がした。  同時に背中に何かがべっとりと張り付いたのがわかった。  おっさんたちの動きも止まっていて、俺の思考も止まった。  特に考えもなく背中側に手を回し拭ってみる。  見たことはないけどわかった。  多分脳だ、脳味噌だ。  その途端すごい勢いで頭が回転しだす。  それに血糊? 脳漿(のうしょう)?  さっきのは爆竹じゃなく銃声だったのか?  誰だ、誰が撃ったんだ?  俺を狙って外したのか?  ドアが開かれる音も気づかないぐらい熱中してた?  質問が一気に頭の中を駆け回る。  中に突っ込まれていたアレが俺から抜ける。  腰を引いたのか口の中からも抜かれていく。  奇妙な開放感。 「ひ、ひぃっ。ひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ」  ああ、おっさんの奴、お気の毒様。  人間恐怖が過ぎると笑いに変わってしまうらしいもんな。  俺も正気を失って狂ってしまいたいぜ。 「こんなジジイでとはね……欲求不満か? 幻真」  また、あの真っ白な音が俺の中で鳴り響いた。  今回は不協和音じゃない、けれどずれた雑味のある音。  あの“UZUZAKURA”のエレキみたいな音のギターのワンフレーズ。  俺は恐る恐るアイマスクをずらして、声がする方を振り返り見た。 「あ、ああっ、……!!」  どうしてここに?  さっきの銃声は俺を助けてくれたのか!?  そう口にしたつもりが驚きすぎて声にならなかった。 「相変わらず可愛いじゃないの、俺の愚弟」
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