俺に眠る能力の正体

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俺に眠る能力の正体

「幻真。お前をお姫様抱っこでお前の部屋に運ぼうかと思ったんだけど、怒られそうでやめた。幻真の部屋に場所を移さないか?」  特に異論がない俺は「ああ」とだけ答えた。  兄貴の部屋だったはずの場所から二人して移動する。  久しぶりに自室に客を迎えた。  俺は黒机と対のイスに座り、兄貴はパイプベッドに腰掛けた。  何か重要な話を聞かされるんだろうか。  鼓動が速くなっている気がする。  落ち着け、冷静になれと自分にクールダウンを要求する。  だが一向に兄貴は所在なくしたまま何も言わない。  そうして時間が幾分か過ぎたような気がする。  俺から切り出した方がいいだろうかと決心しかけたタイミングで、口火を切ったのは兄貴だった。 「先に言っておく。幻真、黙って俺の話を聞け。唐突だろうが何だろうが、続けて聞いていろ。大事なことなんだ」 「兄貴が何を話すのか考えもつかないけど、ちゃんと聞くよ」 「ありがとうな。……『姫』って居たろ、覚えてるか?」 「あ、ああ。覚えてるぜ」  この時俺は兄貴が切り出した話題が『姫』であったことにどうしてか安堵した。  緊張したままなのは変わらずだが。  独特の雰囲気を持ちながらも、人懐っこさを併せ持った幼馴染の彼女のことを俺たちは『姫』と呼んでいた。  といっても、俺よりも接点のあった兄貴の方が姫と呼ぶ回数は多かったはずだ。  姫は兄貴と同じ歳だったと思う。  今は20歳になっているはずか。  でも俺と年齢差があることを感じることはなかった。    いつも笑っていて、……時にミステリアスな面もあった。  一人なのにぼんやりとした様子で誰かと話しているように見えることがしばしばあったように思う。  この状態で姫の話が出てくる意図が俺にはどうしても読めない。  約束通り口は挟まず聞くつもりではいるが。 「姫のところに遊びに行って、泊まった時はよく頭痛がしたろ? 違うか?」  確かに姫の家に泊まった時は決まって寝起きに頭痛に襲われていた。  兄貴にすら話したことがないはずの出来事を知っていることに驚く。  どうしてか尋ねたい気持ちもあるが、俺は黙って頷くことしかできなかった。  あまりにもマジな表情の兄貴に飲まれてしまっている。 「それはな……姫が、いやだな。とにかく姫たちも関わっていたぐらいの認識で今はいい。お前を研究に使っていたことから、お前の体には頭痛として表れた。その研究っていうのは……」  ケンキュウ? 聞き慣れない言葉に俺の頭が(うず)く。 「急に研究なんていわれても戸惑うよな。お前の心の準備が出来た時に俺の知る全てを話してやるさ。今はお前に関することだけを伝える」  ふっと和らいだ表情を一瞬見せてくれた兄貴だったが、さっきまでよりも凄味を増した顔で信じられないことを語り出す。 「……幻真、お前には特殊な能力があるんだ。自覚症状はまだないはずだ。違うか? その能力ってのがらしいんだ。オカルト好きなら呪いとでもいうのかな。ふざけたな、すまない。幻真の体内には能力はあるのに制御するコントローラーみたいなものがないんだ。そのままでは危険だからと、コントローラーとなる『カード』を極秘裏に姫の両親は作り上げることにした。もちろん、だ」 「何だそれ? 新しい映画か何かのストーリーか?」  茶化すように言った俺の声は自分でもわかるほど震えていた。  万里(バンリ)兄貴の真剣さから、俺が信じられようがられまいが事実だということはわかってしまったから、約束を忘れたわけじゃなかったが、俺は精一杯茶化した。 「信じられないのはわかるつもりだ。俺も信じられなかったからな。でも幻真、俺がお前に嘘ついたことあったか?」  兄貴が俺の目を真っ直ぐと射抜いてくる。  逸らせない。  彼の瞳の中に俺が映る。  彼から見た俺が投影された俺の姿が。  憧れ続けた感情に包まれた俺がそこにいる。 「……ない、な。兄貴は俺にだけは嘘つかなかった。俺も兄貴に嘘ついたことはない」 「そうだな。俺もな、幻真に嘘ついたことはない。それはだ。……どうする? その能力のせいでお前は政府に狙われている。実験動物として捕獲したくて仕方ないみたいだ。それにな、こんな回りくどいやり口なのは、政府は幻真の特殊能力を開花させたいかららしい」 「開花?」 「命の危険を覚えたら発動するんじゃないかと政府は考えている。国民も良いように踊らされてるだけといえばそうなんだろうが、俺の弟を殺させるかよ!」  珍しく兄貴が感情を爆発させている。  また涙が溢れそうになるが何とか留まる。  やっぱり俺の兄貴は最高だ。 「このままいても殺されるか捕まるかのどちらかだ。おそらく姫が『カード』を隠し持っているはずだ。姫の居場所を特定して『カード』を手に入れ、力をコントロール出来るようにした方がいいと俺は思ってる。その方が生存率も上がるだろうってな」  姫の親が研究員なのは何となく知っていたけど、俺が関わってたなんてな……。  俺にそんな力が何故?  おいおい、待てよ。  両親が同じなら兄貴にだってあるんじゃないのか……? 「あともう一つだけ言える情報がある」 「え?」 「政府と研究所は別々にお前を捕獲しようとしている。研究所も生け捕りにしたがっているらしいから、お前を本気で殺しにこなかった連中は研究所の人間と考えてもいいだろう」 「…………」  何も言葉が出なかった。  思惑は違えど痛ぶって観察して生きたまま実験に使いたいのは政府も研究所も同じか。 「まだ疲れがとれてなさそうだな。もう一眠りしとけ。俺が見張っててやる。行動はその後だ」 「アリガトウ、兄貴」
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