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#016 言葉の力
基本的に自分で生み出したキャラクターは誰も好きですが、やはり特別な存在というのもあるわけで。私の場合は中瀬尊、増井真也、鈴木健介の三人です。ポジション的には尊が親戚の子、真也が双子の弟、鈴木さんがバイト先のちょっと憧れの社員です。だから、私は鈴木さんのことを名前で呼べません(笑)。
さて、今日はそんな鈴木さんの話を。
鈴木さんは最初、「年下の兄」でワンシーンだけ登場の予定でした。だから名前もすごく適当。日本の苗字ランキング上位から適当に取りました。
で、尊は手術直後の将希が急変したという知らせを患者の病室で受けますが、それが鈴木さんの病室です。そのシーンを書く際にただ診察をするだけではおもしろみがないので、会話をさせてみようと。いざ会話をさせてみたところ、鈴木さんのぐいぐいくる感じが楽しかったのです。そして、退院後診察での再登場やスピンオフ「鈴木さんの中瀬先生観察日記」の主人公にも。
健介という名前は、スピンオフを書く時に決めました。苗字は適当につけてしまったので、名前は好きな漢字を使いました。
「観察日記」の中で、鈴木さんは過去に思いを巡らせます。その中で、就職の決め手となった言葉「健介はここで頑張ってこられたから、どこへ行っても頑張れる」。これは私が実際にバイト先のちょっと憧れの社員からかけてもらった言葉です。
当時、私は大学四年生。卒業後の春休みにやっと就職が決まり、四年間続けてきたバイトを辞めるまであと数週間といった時でした。ずっと頑張ってきたバイトを辞める寂しさと、実家を出てひとり暮らしをするので新生活に対する不安で胸がいっぱいの日々。そんな時に、例の言葉をかけてもらいました。
頑張ってこられたから、「どこへ行っても頑張れ」ではなくて、「どこへ行っても頑張れる」。私の心の支えとなりました。そして本当にずっと寄り添ってくれる言葉となりました。今でも大切にしています。
そんなことから、鈴木さんは私自身の投影であり、バイト先のちょっと憧れの社員なのです。
小説の中で誰かの心に響く言葉が書けたらなぁと思いますが、傲慢だとも思っています。なぜなら、やはりその人その人の人生経験の中で得た言葉に勝るものはないと思っているからです。だからせめて、私は自分の小説の中で彼がくれた言葉を書くことができて幸せです。
生まれ月の最後の夜に。
(2021.05.31)
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