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「なぁ昨日のアレ見た?」
そんな一言が俺の全てを変えてしまった。いや、戻してしまった。
堪えてはいたんだ。
どうしたって俺の恋人の周りはキラキラとしていて、クラスの中でも『陽キャ』といわれる人たちの集まりで、それもやんちゃな、ではなくもっと綺麗な、友情とか勉強とか遊びをバランスよく熟して、そこに恋愛が入ってもソツなくこなすような人たち。
高一の夏に告白されて二年に上がるまでには一通り『恋人』としてのアレコレを終わらせた俺たちは、いつの間にかクラスでも公認の仲だったし、茶化されたりはしたけれど『LGBT』とか『差別』とか色んなものを振りかざしてる昨今、虐められたり避けられたりなんてことはなかったから、幸せだった。のに。
週が明けた月曜日、少し離れた席から聞こえたその声に思わず振り返ってしまったのは、たまたまついていたリビングのテレビがそんな話題を広めていたから。
そして封印していたPCを開いてしまったから。
懐かしいサイトには、偽名の俺宛に百を超えるメッセージが届いていて、その一つ一つに目を通してしまったから。
あぁやっぱり俺はクズでどうしようもない奴なんだ。
好きだった彼の冷たい目を想像して泣きそうになる。
でも、それでも体の奥でブスブスと燻るこの思いは、封印したからって消えるものではなかったのだ。
どこまでも付きまとうのだ。
わかってください、とは言えない。でも別れてくださいとは言いたくない。
ただ、こういう人間なんだと知った上で受け入れてはくれないだろうか。
それはワガママなことなんだろうか。
翌週の月曜日、彼に「ごめんなさい」と呟いて背中を向けた。
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