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「それ見た見た!新作良いよね!前作も前々作も良かったけど、今作はCVもいいし、作監もサイコー!!!!誰推し?誰推し?俺〇〇!あ、同担拒否とかないから!推し事はみんなでしないとね!」
彼とは真逆な所にいる彼等。
封印前に惜しまれつつ終了した美少女アニメがファンの止まない後押しに、今クールに新シーズンが始まったのだ。
キャラも声も軽く原作を超えて来て、往年のファンもさることながら、新規のファンも多く獲得している。
類に漏れず、あれだけ俺を嫌っていた妹もハマった。
ファンサイトでは古参の俺は妹から賞賛の目で見られ、両親ですらハマったそのアニメは今や飛ぶ鳥を落とす勢いだ。
「え?君も?そうだったんだ、ようこそなのかな?それとも古参?どっちでもいいか!僕はね△△推しだよ!」
僕は□□!オレは☆☆!と総勢二十人いる美少女集団の中の自分の推しについてそれぞれが勝手に話し出すと、もうそこは誰も入ることの出来ない沼である。
無常に鳴り響くチャイムに遮られても、たった五分の休憩時間に集まり推し語りをし、昼休憩にはスマホ片手に自分の推しが出てる回をお勧めしあったりし、久しぶりに満足な推し事をした。
「お前がオタクだとは思わなかった」
その日の帰り、冷たい目で俺を見た彼がほんの一瞬悲しそうに眉尻を下げたような気がした。
でも沢山我慢したんだ。部屋中からポスターやフィギュアや本、その他のグッズをしまい込んで、ファンサイトも封印した。
オフ会も行かなかったし、休みは全て彼に捧げてきた。
推しのためのバイト代はそのまま彼とのデート代になった。
一年、一年我慢すれば過去は過去として思い出になると思ったんだ。
そう、熱烈なファンさえいなければ。そして俺の中の推し、彼女が色褪せてさえいれば。
ただ、そう簡単にいかないのが、ファン心理ってぇもんさ。
恋人と推しを天秤にかけ、推しを取った男。
それが俺。反省も後悔もしていない。
ちなみにその後の彼はといえば・・・
「やっぱおれにはお前しかいないんだよぉ。オタクでもいいからたまにはこっち見てよぉ」
えぐえぐと泣きながら、推し語りをしている俺の腰あたりで拗ねている。
チャンチャン♪♪
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