5435人が本棚に入れています
本棚に追加
だが、薔子は苦い表情で首を振る。
「ですが、楽観視もできません。まだ意識が戻ってないんです」
「あ、そうなんだ……」
秋人がしゅんとしている横で、清貴も沈痛の面持ちで相槌をうつ。
「薔子さんの部屋は向かい側ですが、争う物音など聞いていませんか?」
「いいえ。私はいつも耳栓をして寝ているので、彼女の悲鳴でようやく気付けたくらいでして……」
「悲鳴を聞いて、すぐに駆け付けたんですね?」
「はい。そうしたら、血まみれの母の姿が……」
「その時、華子夫人はどんな格好をしていたのでしょうか?」
薔子と使用人は、「バスローブ姿でした」と、ほぼ同時に答える。
「華子夫人は、バスローブを寝巻にしていましたか?」
「いいえ。奥様はいつもネグリジェです」
「華子夫人は朝、入浴をする習慣はありましたか?」
「習慣ではないですが、時々朝風呂には入っていたようです」
使用人の言葉を聞き、そうですか、と清貴は納得した様子を見せる。
「やはり、この白い粉は天花粉ですね。朝早く目覚めた華子夫人は朝風呂に入り、天花粉を手にしていた」
そうか、と秋人は目を輝かせ、
「こうやって、体にぱふぱふはたきながら、風呂場から出てきたってわけだな」
と、天花粉を片手に、体をはたく素振りをする。
冬樹は、なるほど、と納得したように頷いた。
「そこに犯人と出くわしてしまい、白い粉が飛び散ってしまったってわけだ」
争った末に天花粉が入った容器は、ベッドとベッドの間まで転がったようだ。
清貴は腰をかがめて容器を確認し、「ああ、やっぱりそうですね」と目を弓なりに細める。
最初のコメントを投稿しよう!