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そのすぐ近くのチェストの上に、果物が載った皿があった。
大層高価で庶民はなかなか口にすることのできないバナナが一房、惜しげもなく皿に載っている。他には、みかん二個、リンゴと梨が一つずつ置いてあった。
どれも瑞々しいが、梨だけは傷んで黒ずんでいた。
「不可解なのは、凶器ですね……」
と、清貴は体を起こして、顔をしかめた状態で、床に目を向ける。
窓際には、バイオリンが落ちていた。
弦が歪み、側板に血がべっとりと付着している。
「凶器は、あのバイオリンですか?」
清貴の問いに、薔子と冬樹は同時に頷く。
「おそらく」
「もしかして薔子さんのバイオリンですか?」
いいえ、と薔子は慌てたように首を振った。
「あれは、一階の応接室に飾っていたものだと思います」
そうですか、と清貴は腕を組む。
「やはり不可解ですね」
「何がだよ」と秋人。
「この家にはもっと殺傷能力の高いものがたくさんあります。たとえば、この暖炉の上の燭台や花瓶もそうです。なぜ、バイオリンなのか」
「そうか? バイオリンも硬そうだけどな」
そんな話をしていると、部屋を調べていた警察官の一人が「あれ」と声を上げた。
「ベッドの下に、注射器が落ちてます!」
と、ベッドの下に転がっていた注射器を取り、冬樹の許に運んだ。
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