第二幕 第二の事件

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 冬樹と清貴と秋人は、その注射器を目を落とす。  液体が入っていたと思われる注射器の中は空だった。  清貴は、もしや、という顔で、薔子と使用人を見やる。 「チェストの上の果物は、いつも置いてあるのでしょうか?」  はい、と使用人が頷いた。 「奥様も百合子お嬢様も果物がとてもお好きなので、切らさないようにしております」 「華子さんには、苦手な果物がありましたか?」  その問いに、使用人と薔子は顔を見合わせた。 「……苦手というか、母は梨を食べません」  薔子に続き、使用人も、はい、と頷く。 「奥様は元々、梨はお好きなんですが、食べると喉がイガイガしてしまうと仰って……」 「そのことは、家の誰もが知っていることでしたか?」  さらに問うた清貴に、薔子は、たぶん、と答えた。 「果物の話になると、『梨の味は好きなのに喉がイガイガしてしまうから食べられない。残念だ』と、よく言っていたので」  そうですか、と清貴は皿の上の梨を手に取る。  黒ずんだ梨を見て、使用人は眉根を寄せた。 「あら、その梨、昨夜用意したときは、あんなに瑞々しかったのに、どうして一晩で腐ってしまったのかしら?」 「それは、簡単な話ですよ」  と、清貴は、梨に針で刺したような穴があるのを見付けて、皆に見せる。 「その注射器で、毒薬を注入したからでしょう」 「――っ」  皆は目を見開いて、絶句した。 「……ってことはなんだよ?」 「犯人は早朝この部屋に侵入し、梨に毒物を注入した。その時、バスルームから華子夫人が出て来たわけです。犯人は驚きながらも、近付いてくる華子夫人の頭をバイオリンで殴りつけて逃走した――」  清貴の言葉を聞き、つまり、と秋人と冬樹は目を光らせる。 「犯人は華子さんじゃなくて、百合子さんの命を狙っていたわけだな」  そうか! と冬樹は拳を握った。 「犯人はたまたま、華子夫人に見付かってしまった。致し方なく及んだ犯行というわけだ。とりあえず、靴を見付けなくては! 皆、捜索を急げ」  冬樹は部屋にいた警察官たちを見て声を上げる。  皆は、はっ! と敬礼のポーズを取って、駆け出した。 「犯人はとことん百合子さんを狙ってるっつーわけだな」 「ああ、そうなると、絞りやすい」  うんうん、と頷く冬樹と秋人を見ながら、清貴だけは解せないような顔をしている。  その視線は、床に転がっているバイオリンに注がれていた。
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