第二幕 第二の事件

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      3  この事件の渦中の人物、花屋敷百合子は、隣の使用人の部屋のソファーに座っていた。  使用人の部屋にはベッドと一人掛けのソファー、机と椅子がある。十分すぎる立派な部屋だが、華子の部屋を訪れた後では、随分質素に見える。  ソファーに座る百合子は、いつもと様子が違うのを感じているのか、そわそわとした様子を見せていた。  膝の上の手がせわしなく動いている。 「百合子さんは、目も耳も不自由なわけだから、この状況を説明しようがないよな」  秋人が気の毒げにつぶやくと、使用人は「いいえ」と首を振る。 「百合子お嬢様は、生まれた時は健康だったそうですが、六歳の時に大病を患い、目と耳が不自由になってしまいました。百合子お嬢様はとても聡明でしたので、六歳で読み書きは完璧だったそうなんです。ですので、いつもこれで会話を」  そう言って使用人は、ひらがなが浮き彫りになったボードを取り出した。それは、積み木のように並べられ同じ文字が並んでも問題ないよう、複数用意されている。 「なるほど、考えましたね」  清貴は、トントンと百合子の腕を軽くノックしてから、ひらがなボードを使って文字を並べて、会話文を作った。 『はじめまして やがしらともうします』  すると百合子は、『やがしらともうします』の文字を取り除き、『はじめまして』だけを残して、会釈をする。 『あなたは なにもの?』  百合子が新たに並べた文字を見て、清貴は少し考えてから致し方ないという様子で文字を作る。 『わたしは たんていです』 「おっ、ついに探偵だと認めたな」  茶化すように言う秋人に、清貴は顔をしかめる。 「『警察』と伝えることも考えたんですが、嘘をつきたくないですし」  嘘をつかず短い文字ですべてを伝えるには、『探偵』が手っ取り早い。
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