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清貴は続けて、文字を作る。
『あなたの おかあさんが ごうとうにおそわれ けがをしました』
そう伝えると、ああ、という様子で百合子は両手で顔を覆う。
『なにか きづいたことはありますか?』
そう問うも、彼女は今も顔を手で覆ったままだ。
清貴が並べた文字に気付いていなかった。
「清貴君。いいかな」
冬樹に呼ばれて、清貴は百合子の肩を優しく撫でてから、「はい」と立ち上がる。
「やはり、あのバイオリンは、応接室に飾っていたものだったようだ。ちょっと来てくれ」
清貴と秋人は、冬樹とともに一階の応接室に移動する。
*
応接室には、大きなガラス戸の棚があり、そこに骨董品や人形が飾られていた。
よく見ると、何も入っていない段がある。
「――ここに、例のバイオリンが入っていたそうだ」
と、冬樹はガラス棚に目を向けながら言う。
「ちなみに、いつ頃持ち出されたか、分かりましたか?」
「今、聞き込みをしているが、応接室のガラス棚の中のことを気に留めていた者はいないようで、皆、よく分からないと答えているよ」
「バイオリンと注射器に指紋は?」
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