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「注射器には何も。そしてバイオリンには、元々あった複数人の指紋が残されていたが、犯人のものと思われる新しい指紋はついていなかった」
「そうですか……しかし不可解ですね。なぜ、わざわざバイオリンを使ったのか」
首を捻る清貴に、冬樹も考え込むような顔を見せる。
「もしかしたら犯人は、ここにあったバイオリンに価値を感じて盗み出すつもりで、手にしていたんじゃないか? そのまま華子夫人の部屋に侵入し、とっさにそれを凶器にしてしまったとか」
「バイオリンを手にしたまま、毒が入った注射器を持って部屋に侵入するのが不自然ですし、そもそも、あのバイオリンは特別な価値はない、ごく普通のものでした」
清貴は、豪商と謳われる家頭家の後継ぎ。
目利きとしても知られている。バイオリンの価値も見抜いていた。
とはいえ、と清貴は続ける。
「金銭的なことはさておき、この家に於いては価値があったのかもしれませんがね……」
清貴がそうつぶやいていると、外から警官の声が聞こえてきた。
「靴があったぞ!」
「本当か、どこにあった?」
「裏の林です」
その声に、三人は窓の外に目を向ける。
警官たちが、靴を手に嬉しそうにしている様子が見えた。
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