第一章 それぞれの歩みと心の裏側

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        1  九月も下旬になり、京都もすっかり秋らしい空気だ。  道行く人たちのファッションも、落ち着いた色合いに変わってきている。  アーケードは賑わっているが、寺町三条にある骨董品店『蔵』は、相変わらず静かなもの……と、いつもなら言っているところだけど、最近はそうではない。  正面のディスプレイを工夫するようにし、いつも店の扉を開けておくようにしたことから、最近はふらりとお店に入ってくる人が増えた。  それだけではなく、近ごろ圧倒的に女性客が多くなったのは、カウンターに立つ彼のなせる業だろう。  私は、ちらりとカウンターに視線を移す。  そこには、ホームズさんこと家頭清貴さんがいた。  すらりとした長身に整った顔立ち、艶やかな黒髪、白い肌。  以前のようにカウンターの中で、帳簿を開いて書き込んでいる。  今、小松探偵事務所は、小松さんが副業に専念するため、休みに入っている。その期間、ホームズさんは、ここに戻ってきていた。  こうしていると、私がバイトを始めた頃に戻ったようだ。  そんなことを考えていると、店内の電話が鳴って、ホームズさんが受話器を取った。 「はい、骨董品店『蔵』です」  今や電話は、スマホにかけるのが主流になっているが、この『蔵』では店の電話が鳴るのも珍しくない。  その電話機も、骨董品店らしく、まるで大正時代の華族を思わせるアンティークなデザインだった。 「――ああ、お久しぶりです。ええ、はい。うちはいつでも歓迎ですよ。今月中は、基本的に毎日おりますので。はい、お待ちしております」  ホームズさんはにこやかに言って、受話器を置く。
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