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九月も下旬になり、京都もすっかり秋らしい空気だ。
道行く人たちのファッションも、落ち着いた色合いに変わってきている。
アーケードは賑わっているが、寺町三条にある骨董品店『蔵』は、相変わらず静かなもの……と、いつもなら言っているところだけど、最近はそうではない。
正面のディスプレイを工夫するようにし、いつも店の扉を開けておくようにしたことから、最近はふらりとお店に入ってくる人が増えた。
それだけではなく、近ごろ圧倒的に女性客が多くなったのは、カウンターに立つ彼のなせる業だろう。
私は、ちらりとカウンターに視線を移す。
そこには、ホームズさんこと家頭清貴さんがいた。
すらりとした長身に整った顔立ち、艶やかな黒髪、白い肌。
以前のようにカウンターの中で、帳簿を開いて書き込んでいる。
今、小松探偵事務所は、小松さんが副業に専念するため、休みに入っている。その期間、ホームズさんは、ここに戻ってきていた。
こうしていると、私がバイトを始めた頃に戻ったようだ。
そんなことを考えていると、店内の電話が鳴って、ホームズさんが受話器を取った。
「はい、骨董品店『蔵』です」
今や電話は、スマホにかけるのが主流になっているが、この『蔵』では店の電話が鳴るのも珍しくない。
その電話機も、骨董品店らしく、まるで大正時代の華族を思わせるアンティークなデザインだった。
「――ああ、お久しぶりです。ええ、はい。うちはいつでも歓迎ですよ。今月中は、基本的に毎日おりますので。はい、お待ちしております」
ホームズさんはにこやかに言って、受話器を置く。
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