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『わからない すぐいなくなった』
『ほかに かんじたことは?』
『そのひとから あまいかおりがした』
ふむ、と清貴は腕を組み、再び訊ねる。
『これではないですか?』
清貴は天花粉の香りを百合子に確認してもらうも、『ちがう』と首を振った。
『どんな あまさですか?』
百合子はその時の香りを思い出そうとしているのだろう。眉間に皺を寄せている。
ややあって、こう答えた。
『ばにらのかおり』
「バニラ――」
清貴が真剣な顔をして考え込んでいると、蘭子が鼻で嗤った。
「それなら、一番怪しいのは、台所でお菓子作りをしている使用人じゃないのかしら? 家族に嫌疑がかけられているけど、使用人が百合子姉さんの世話に疲れた、って可能性もあるんじゃない? 使用人は若いから、すべすべした肌をしているし、お菓子にバニラの香料を使うから、香りがしていても不思議じゃないわ」
蘭子は腕を組んで、壁際に立つ使用人に目を向ける。
彼女は弾かれたように顔を上げた。
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