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「なんでも、聞いてちょうだいね」
蘭子は一人掛けのソファーに座り、悩ましく足を組みなおす。
冬樹は直視できぬように目をそらし、秋人は分かりやすく目を輝かせ、清貴は気にも留めぬ様子で「では」と話を始めた。
「ガラス棚のバイオリンは、いつ頃から飾られていたんですか?」
「さあ……ずっと前からよ。私たちが子どもの頃からあったわ」
「どなたの物だったんでしょうか?」
「誰の物でもないから、触りたい人は勝手に出して使ったりしてたわ。まぁ、薔子姉さん以外、ちゃんと弾ける人間なんていないんだけど」
と、蘭子は笑い、「そういえば」と両手を合わせる。
「元々は、父のバイオリンだったって話よ。父は子どもの頃からバイオリンに憧れていたんですって。でも、結婚前は貧しくて手が出なかったそうでね。それで、結婚してから、バイオリンを買って挑戦してみたけどまったく上達しなかったとか。そうそう、その話を聞いた薔子姉さんが、『それじゃあ、私がお父さんの代わりにバイオリンを弾いてあげる』って。それがキッカケでバイオリンを始めたそうよ」
蘭子は思い出したように頷きながら語り、薔子贔屓の冬樹は、「いい話だ」と胸に手を当てている。
そうですか、と清貴は微笑みながら相槌をうつ。
「亡くなったお父様は、慕われていたんですね?」
「薔子姉さんと弟の菊男は、穏やかで優しい父が大好きだったみたいね。だけど、私は別に……。惨めったらしくて見てられなかったわ。私も『可哀相』だとは思ってたけどね」
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