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「お父様は、どのように可哀相だったんでしょうか?」
「いつも小さくなってたわ。母もぶち切れると、すぐに暴れるから、父は常に言動に気を付けていたみたいだし」
その姿は、想像がつく気がした。
「母は常に百合子姉さんにべったりで、父とは寝室も別よ。父は父で、現実から逃避するみたいにいつも研究室に籠って実験ばかり。かといって、それで何か偉大な発見ができたわけでもないし、母の顔色を窺って生きる小動物みたいな人だったわ」
「そんなお父様が失踪した時、お母様はどんな様子でしたか?」
「最初は誘拐じゃないかって怪訝そうにしていたんだけど、家出が濃厚ではないかとなった時、びっくりするくらい取り乱してね。きっと言いなりだと思っていた夫に逃げられてショックだったのね。研究室に鍵をかけて、誰も入らないようにしちゃうし」
「どうして、そんなことをしたのでしょう?」
「劇薬もあるし危ないと思ったんじゃないかしら。父がいなくなったら、自分が花屋敷家の当主でしょう? 毒殺を心配したんじゃないかしらね……結局、物理的に襲われたみたいだけど」
蘭子は肩をすくめて言う。
いえ、と冬樹が口を開いた。
「華子夫人は狙われたわけではなく、とばっちりを受けただけのようだ」
えっ? と蘭子は目を瞬かせた。
続きは、清貴が答えた。
「犯人はあの寝室に侵入し、注射器を使って梨に毒物を注入していたところ、入浴を済ませた後の華子夫人と出くわしたようなんです」
「え、でも、それはやっぱり毒殺じゃないの? あ、そうか。母は梨を食べないから」
そこまで言って蘭子は、冷ややかな表情をする。
「――ってことは先週に引き続き、百合子姉さんが狙われたということね。だとしたら、弟以外、考えられないわね。梶原さんも遺産の話を聞いていたでしょう? 母が百合子姉さんに相続させるつもりでいるって」
「あ、ああ、よく覚えていますよ」と冬樹は頷く。
ふむ、と清貴は腕を組む。
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