第二幕 第二の事件

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「どうやら、華子夫人の百合子さんへの愛情は少し行き過ぎているように思えます。最初は世間に向けてのポーズかと思いましたが、それで娘と同室で生活することまではできないでしょう。本気で華子夫人は、百合子さんに傾倒しているようですね」  そうね、と蘭子は目をそらす。 「なぜ、あれほどまで百合子さんを?」  蘭子が何か言う前に、冬樹が答えた。 「それはやはり、百合子さんが不憫だったからだろう?」  すると蘭子は鼻で嗤って、首を振る。 「そんなんじゃないわ。ううん、それもあるかもしれないけど、あれはナルシシズムよ」  ナルシシズム? と三人は思わず訊き返す。 「百合子姉さんは母の若い頃にそっくりなのよ。あと、自分が亡き祖父の主催する夜会で遊び惚けている時、百合子姉さんは寝込んでいて、ああいう状態になってしまったから負い目もあるのね。前の旦那さんと別れた原因も百合子姉さんの病気だったようだし……。まぁ、そういうのも重なって、百合子姉さんにべったりなわけ。挙句の果てには、遺産までですもんね。後継ぎの菊男はそれが面白くなくて仕方ないのよ」 「面白くないのは、あなたも一緒なのではないでしょうか?」  ストレートな清貴の質問に、秋人はぎょっとした。  だが、蘭子は気にも留めていない様子で、ふふっ、と笑う。 「そりゃあ、もちろん面白くないけど、殺すほどじゃないわ。私は贅沢に生活できる程度のお金があれば十分。なんなら百合子姉さんの後見人になったっていい。お世話は使用人がするわけだし」 「では、感情的にはどうでしょうか?」  続けて問うた清貴に、「感情?」と蘭子は眉を顰めた。
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