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お相手は誰なのだろう?
私がジッと見つめていると、視線に気付いたホームズさんは顔を上げて、微笑んだ。
「喜助さんからでした」
私は、えっ、と目を瞬かせる。
「喜助さんって、あの?」
「ええ、市片喜助さんです」
市片喜助さんは、歌舞伎役者だ。彼とは私たちが親しくしている俳優の梶原秋人さんを通して知り合った。
「今、南座で公演中らしく、いつになるかは約束できないそうですが、時間を見付けて会いに来たいという話でした」
そうだったんですね、と私は相槌をうつ。
「ちょうど良かったですね。今ならホームズさん、『蔵』に常駐してますし」
「ええ、もし僕が一時的に留守にしていても、呼び出してもらえたら戻ってこられます」
以前は、そうしていた。
「昔に戻ったようですね」
本当ですね、とホームズさんは頬を緩ませる。
「ホームズさんが戻ってきてくれてから、若い女性客が増えましたよね」
さすが、看板娘ならぬ、看板美青年だ。
ホームズさんは目をぱちりと開いたかと思うと、いいえ、と首を振る。
「それは、違いますよ」
「そうですか?」
「だって元々、僕がここにいても、若い女性客なんてほとんど来なかったですよね?」
そういえば、と私は当時を思い出す。
たしかにホームズさんがここにいた時、若い女性客はおろか、客自体ほとんど入ってきていなかった。
こんな状態で、経営は大丈夫なんだろうか、と心配したほどだ。
後々、家頭家はこの店での売り上げよりも、鑑定や買い付け、そして好事家の許に出向いての販売で利益を得ていたことを知るのだけど――。
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