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「蘭子さん――あなたは、とても寂しかったんですよね?」
そこまで言って清貴は、労るように切なげな表情で語り掛けた。
蘭子は全身を小刻みに震わせて、ソファーに座り顔を伏せた。
肩が小さく揺れ、うっ、と嗚咽が漏れる。
清貴はソファーから立ち上がって、とんっ、と蘭子の肩に優しく手を乗せる。
「小さい頃から本当に欲しいものが与えられずにきたんです。お辛かったですね」
蘭子は俯いたまま、微かに頷く。
「ですが、蘭子さん、まだ、あなたのお母様は生きています。どうか、ご自分に素直になってください。抱き締めてもらえないのであれば、ご自分から抱き着いてください」
蘭子はぼろぼろと涙を流しながら、
「――はいっ」
と、膝の上で両拳を握り締める。
清貴は、内ポケットからハンカチを取り出して、スッと蘭子に差し出した。
しばらく、応接室に蘭子の嗚咽が響いていた。
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