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「――清貴君は、本当に素晴らしいな」
蘭子が応接室を出て行った後、冬樹はしみじみとつぶやいた。
すると秋人が、「ちげーよ、兄貴」と顔を引きつらせる。
「何が違うんだ? 蘭子さんの心を溶かしたんだ。素晴らしかったじゃないか」
だからっ、と秋人は肩をすくめて、清貴を横目で見た。
「これがこの男の怖いところなんだよ。こいつは、ああやって人の心に入り込んで、人を操っていくんだ。これで、蘭子さんはこいつの手駒なんだよ。悪魔みたいな男なんだよ、ホームズは!」
「失礼だぞ、秋人」
「まったくですよ、人聞きの悪い」
と清貴はソファーの背もたれに身を預ける。
「それにしても、聞けば聞くほど、気になることがいくつもありますね」
「やっぱり、バイオリンか?」
他にもいろいろ、と清貴は息を吐き出す。
「自殺した当主といい、華子夫人といい、この家はどうも不可解です。気になるのは、そこの玄関ホールの壁」
そう言って、清貴は応接室の外を指差した。
壁? と、秋人は廊下に目を向ける。
「一部、変色しているんです。おそらく大きな絵が飾られていたのでしょう」
「え、そうだったか?」
秋人は応接室を出て、玄関ホールの壁を確認した。
「ああ、本当だ。大きな絵が飾ってあったっぽい」
「なんの絵が飾られていたと思います?」
清貴に問われ、秋人は「さあ?」と首を傾げながら、応接室に戻ってくる。
「たぶん、この家の闇ですね」
清貴はそう言って、微かに目を細めた。
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