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むむ、と冬樹は顔を険しくしかめる。
「――そうか、分かったぞ。犯人は義春氏の失踪前、つまりこの部屋が開放されていた時に侵入し、毒物を手に入れたんだ」
「兄貴……」
秋人は冷ややかに目を細める。というのも、この話は清貴が昨日、可能性の一つとして挙げていたからだ。にもかかわらず、冬樹は、まるで今自分が思いついたような顔で言っている。それは、やはり側にいる薔子を意識してのことだろう。
だが、冬樹のそんな微々たる努力も薔子には伝わらなかったようだ。
彼女は感心するわけでもなく、いいえ、と首を振る。
「その可能性はほとんどないと思うんです。父が生きていた時から、ここへは誰も自由に出入りなどできませんでした」
「あ、そうだったのですか」
と冬樹は、拍子抜けしたように洩らす。
「はい。『この部屋は危ないから』と、父は誰も……母すら入れないようにしていたんです。自分がここから離れる時は、トイレに行く時だって、いちいち扉に鍵を掛けていたんですよ」
「トイレに行く時まで?」
過剰だな、と秋人は目を丸くする。
「危険な薬品を扱う化学者として素晴らしいことですよ。この家には小さなお孫さんたちもいらっしゃいますしね」
清貴はそう話しながら、鍵穴に鍵を差し込んだ。
がちゃり、と重い音が響く。
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