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研究室は、十八畳ほどの広さだ。
部屋の中心に水道が備えつけられたテーブルがあり、ビーカーやフラスコ、アルコールランプ、ガスバーナーが並んでいる。
壁には棚が並び、その中に本や薬品の瓶があった。
仮眠もとれそうな大きなソファー、そしてこの部屋にも暖炉があった。
床には埃が積もっている。歩けば足跡がつきそうなほどだ。
そして、まるでその足跡を隠すように、床の埃は踏み荒らされていた。
「――警察は二か月前、水死体が義春さんのものだと確定した時も、この部屋に入っているんですよね?」
ああ、と冬樹は頷く。
「俺も同行している。その時は、『彼はここを綺麗に片付けて死にに逝ったんだな』と思ったくらい綺麗なもので、こんなに埃は積もっていなかった」
はい、と薔子が頷く。
「警察がここを調べた後に、母が鍵を掛けて、完全に開かずの間にしました」
「二か月で、こんなに埃が積もるんだなぁ。でも、その埃は踏み荒らされてるっぽいし、やっぱり、誰かが侵入したんだな」
と、秋人は部屋を見回しながら、ごくりと喉を鳴らした。
「不思議ですね」
清貴は床を眺めながら、目を細める。
皆は黙って清貴の方を向いた。
「埃が乱れているのは、部屋の中心だけなんです。戸口と窓の下、壁際の埃は動かされた様子がない」
「ってことはなんだ? 犯人はドアを開けて、ジャンプして部屋の中に入って、作業をして、足跡を隠すように埃を踏み荒らして、またジャンプして部屋の外に出たとか?」
「そうかもしれませんが、そんなことをわざわざする必要はないでしょう」
清貴は首を捻りながら、部屋に入り、窓を確認する。
窓は刑務所のように鉄格子がついており、出入りは不可能だ。
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