第三幕 亡き当主の研究室

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「おい、ホームズ、見ろよ。化学者だった当主は、すげぇ几帳面だったみたいだな」  秋人は、薬品棚を眺めながら言う。  棚は五段になっていて、各段ともに三つに仕切られ、十五の区画に分けられている。  そこに、大きさ、形状ともに統一した瓶が、綺麗に並んでいた。  瓶の一つ一つにラベルが貼られている。  黒インクを使った綺麗な文字で、薬品の種類と番号が記されていた。  一番目を示す『#1』の薬品は最上段の左端に置かれ、そこから右に『#2』『#3』と続いていた。 『#15』の薬品が一番下の段の右端で、『#16』は新たな棚に移る。  格子状に区切られた棚には、瓶がずらりと並び、他には何も置けないほどだ。  そうした棚は、この部屋には二十ほどある。つまりこの部屋には、薬品が全部で三百あるということだ。  おっ、と冬樹が上から二番目の棚を見て、声を上げた。 「清貴君、これを見てくれ」 【#9 C21 H22 N2 O2 ストリキニーネ[劇薬]】 [劇薬]だけは、赤字で書かれていた。  中身は結晶状の白い錠剤であり、半分ほどしか入っていない。 「これはこれは――」  清貴は興味深そうに目を輝かせる。 「冬樹さん、二か月前、この薬品の調査はしましたか?」 「もちろん、棚のすべてを見たし、特に劇薬には注目したよ。その時は、もっと錠剤が入っていたはずだ」  と、冬樹が鼻息を荒くした。
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