第三幕 亡き当主の研究室

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「そうですね、それに、ここを見てください」  清貴は、瓶の底を指差す。  床だけではなく、棚にも同じように埃が積もっていた。  ほとんどの棚の埃は、動いた様子はない。  だが、ストリキニーネが入った棚の埃は、明らかに乱れている。  冬樹と秋人、そして薔子はハッとした顔を見せた。 「二か月前は、こんなに埃が積もっていなかったわけですから、この瓶が最近動かされたことは間違いなさそうです。犯人はここからストリキニーネを持ち出して、百合子さんのミルクティーに入れたと考えて良いでしょう……」  清貴は、再び棚に目を向ける。  十二番目の棚まで来て、清貴は動きを止めた。  上から二番目の段に、誰かが触れたような指の跡が残っていたのだ。  その棚の薬品は、【#169 HNO3 硝酸[劇薬]】だった。 「冬樹さん、ここに誰かが触れたような痕があるのですが、これに覚えは?」 「――覚えはないな」 「もしかして、それが梨に入れられた毒物なのか?」  と、秋人が興奮気味に訊ねる。 「いえ、それは、こっちですね」  と、清貴は同じ段の瓶に目を向けた。 【#168 塩化第二水銀[劇薬]】 「あ、これか……」  秋人は恐れをなしたように、低い声でつぶやく。  その瓶の中に入っているのは、液体だった。  ストリキニーネと同様に、量が少なくなっている。  さらに調べると、中央のテーブルについている引き出しの中には、注射器がいくつも入っていた。 「――――っ」  薔子の顔は蒼白となって、口に手を当てた。
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