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つまりこの骨董品店は、古美術の展示場兼倉庫のようなものでもあり、一見様に買ってもらうことなど期待していなかったのだ。
「ホームズさん自身、集客に熱心ではなかったんですか?」
そうですね、とホームズさんは手を止めて、腕を組む。
「僕も学生で、鑑定士である祖父の手伝いもあり、あれこれ忙しかったので、集客に熱心というわけではなかったですね」
「それでミーハーな人間は入ってこられないような雰囲気を作っていたわけですね」
私は納得して、大きく頷く。
これまで、ホームズさんのような美男子が店番をしていたのだから、『看板男子効果』はあっただろう。
実際、ホームズさんが店番をしていると、『今のお店にカッコいい人がいた』と若い女性が噂をしながら通り過ぎていくことがある。
だが、店の中にまで入ってくることはなかった。
『カフェだったら良かったのに』という声も聞こえてきたことがある。
それはきっと、あえて近寄りがたい雰囲気を醸し出していたのだろう。
「いえいえ、積極的に集客対策をしていなかっただけで、入ってこられないような雰囲気を作ったつもりはないですよ。曲がりなりにもここは店舗なので、お客様に入っていただけるのは嬉しいことです」
「そうだったんですか?」
「はい。常に『もっとたくさんの人に古美術に触れていただきたい』と思っていますし。最近、若い女性客が増えてきたのは、葵さんの小さな努力の積み重ねだと思いますよ」
えっ? と少し驚いて、私は自分を指差した。
「私の小さな努力ですか?」
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